1、刑法と民法の法的評価
刑法は、犯罪と刑罰を規定し、国の刑罰権が発生する条件を明確にするもので、公法に分類されるが、民法は私人の財産関係と家族関係を規律し、私法に分類される。ある事実に対して、刑法と民法で法的評価が異なる場合について、具体例をあげて論評する。
2.人の始期
民法では、権利能力の主体になりうるかということに対して、人の始期が問題となる。民法886条により、胎児は「人」となる前であっても相続人になりえるという特別の規定がある。したがって、子供が母体から完全に分離した段階で生存していたならば、「人」とする全部露出説が基準として明確であり、特に問題は生じない。しかしながら、刑法の分野での堕胎罪と殺人罪を区別するために、人の始期がいつになるかが問題となる。胎児の一部が母体の外に露出されれば人になるとする一部露出説(林13頁)は、胎児が一部でも露出すれば、単独で直接攻撃を加えることができることを理由とするものであり、この判例が現在の通説とされる(大判大8・12・13刑録25・1367)。一方、行為の態様から客体の性質を区別すべきでないとして、全部露出した時点で「人」とする全部...