第2章 創発
本書では、ある種の社会構造が因果パワーをもっているという主張を創発の理論によって正当化できることを議論する。そのために、本章では、その主張を正当化するために用いられる創発理論の記述を行う。
近年、幅広い領域が創発理論に対して関心を示してきた。しかし、創発理論を用いた全ての学者が、それを用いることの意味を説明し、また正当化しているわけではない。また、それを行っている学者であっても、創発という概念の意味について合意しているわけではない。本章においてそうした議論を詳細に紹介する紙面はないが、筆者が実社会に応用しようとしている創発理論の関係的な理論を説明することにしよう。
本章では、第1に、創発の関係的な概念を説明する。その後、その説明と、それに対して最も有力な代替的な説明、つまり心の哲学者によって信奉されている創発の“強固な”概念と対比させる。最後に、創発特性とそれを持っている実体の因果的な歴史の関係について、形態維持と形態変容という概念を用いながら説明する。本章以降では、創発の関係的な理論を原因についての批判的実存主義者の理論を結びつけ、またそれが還元主義者の疑問...