行為の経営学 第1章
1.経営学における対話不可能状態
■問題意識
近年の経営学では方法論についての議論がほとんど行われていない。この原因の一つとしてあげることができるのは、方法論に関する問題は解決したと考えられている風潮が存在することである。いずれにせよ若手研究者に求められることは経験的研究もしくは実証研究において業績を上げることであって、自らが行っている活動の意味や意義について深く考え込む必要はない、という状況が日本の経営学会には存在する。
■本書の目的
しかし、方法論の問題が解決したと当初考えていた人が方法論を学んだことのある人であるのに対し、現時点で「方法論の問題は解決済み」と考えている人は必ずしも自ら方法論を学んだ人であるわけではない。このことは二つの問題を引き起こしている。研究者のコミュニティにおいて既存の方法論とは異なる立場をとるものが現れると、(1)無意味な感情的批判が妥当な批判であるかのように扱われてしまうという問題と、(2)無視あるいは没交渉という状況が生じるという問題である。実際に多様な方法論を認めるというタテマエのもとに自分とは異なる方法論的立場を...