同じ名詞に異なる接尾辞が付いたために、異なる意味になった形容詞をOEDをもとに歴史的に分析しています。
接尾辞-icalと-icが作り出す形容詞について
I. はじめに
英語では、もとの単語である語幹に接辞が付く接辞付加という現象がある。このレポートでは、形容詞を作り出す接尾辞である-icと-icalについて考えていきたい。これらの接尾辞は、派生される形容詞の語幹が同じ名詞である場合がある。しかし、意味上では異なっている場合とそうではない場合があるが、ここでは意味上において異なる場合に焦点を置くことにする。語形成という観点からどのよう派生して形容詞が作り出され、実際にどのような使われ方をしているか、について検証していく。
II. 接尾辞-icと-icalが付加する形容
ここでは、そもそもと-icと- icalは、どのような接尾辞であるのかについて確認したい。
II-1. 接尾辞-icが付加する形容詞
接尾辞-icが付加して形容詞を作り出す場合、どのような意味が付加されるかについて確認する(竝木 1985: 51-52)。
意味:〜の(特徴を備えた)、〜のような
品詞:名詞に付加される接尾辞
実例:atomic(原子(力)の)、heroic(英雄らしい、英雄に関する)
特徴:名詞形とはアクセントの位置が異なり、
基体の最後の音節に第1強制(アクセント)が置かれる。
接尾辞-icで終わる場合と-al (-ical)で終わる場合には意味は異なる。
II-2. 接尾辞-icalが付加する形容詞
接尾辞-icalが付加して形容詞を作り出す場合、どのような意味が付加されるかについて確認する(竝木 1985: 49-50)。
意味:(a)〜の(ような)、(b)〜と関係のある
品詞:名詞に付加される接尾辞
実例:(a) accidental (偶然の)、(b) editorial(編集に関する)
特徴:名詞形とはアクセントの位置が異なる。
主として借入語や新古典語に付く。
II-3. 接尾辞-icalと-icが付加できる名詞
II-2において、接尾辞-alと-ic で終わる場合には、意味が異なると記したが実際にどのような形容詞が該当するかについて、Quark et al. 著A Comprehensive Grammar of the English Languageをもとに記述したい。Quark et al.によれば、いくつかの形容詞は、接尾辞-icと-icalが交互に起り、その場合は形容詞の意味が異なるとして、つぎのような例を示している (Quark et al. 1985: 1554)。
a classic performance ~ classical language
(第一級の、素晴らしい) (ラテン語、ギリシア語)
(2) a comic masterpiece ~ his comical behaviour
(喜劇の) (おかしな、滑稽な)
(3) an economical miracle ~ the car is economical to run
(経済の) (節約する、コストがかからない)
(4) an electric light ~ an electrical fault
(電動の) (電気の(故障))
(5) a historic building ~ historical research
(歴史上の) (歴史的な)
(6) his politic behaviour ~ political parties
(賢い) (政治の(政党))
以上のように、同じ基体から派生した形容詞であっても意味が異なることがわかるだろう。ここでQuark et al.が示したいくつかの形容詞について、どのように形成されたかについて、The Oxford English Dictionary, 2nd Edition (1989, 以下OED2)を中心に観察したい。
III. 接尾辞-icalと-icが付加する形容詞の分析
ここでは、II-3で提示した形容詞のなかから4ペアを選び、どのように語が形成される過程を通るかについて、調べてみる。調べる形容詞のペアは次の通りである。
(1) economical –economic, (2) historical –historic,
(3) electrical – electric, (4) political – politic
III-1. 形容詞economical – economicの場合
まず、形容詞economical – economicの基体となる語は、名詞economyであることは間違いないだろう。名詞economyが初出した年度を調べようとしたのだが、OEDでは理解することができず、『新英和大辞典 第六版』(竹林編 2002)を参照した。単語が派生した順序は次の順である。
economy (1485) → econom - [+y] + [+ical] (1485) → economic - [+al] (1592)
ここで示した通り、まずは名詞形に接尾辞-icalが付加され、約100年後に接尾辞から-alが脱落したと考えることができるだろう。OEDによると1592年当時で使用されて意味は、現代英語では廃語であり、いま使われている「経済の」という意味で最初に使われたのは、1835年に、次のように定義され使われたことになっている。
定義:Relating to the science of economics;
relating to the development and regulation of the material
resources of a community or nation.
例文:The economic experiment. (Taylor Spir. Despot. ii. 70)
またここで、OED2ではどのように形容詞economicとeconomicalが定義されていたかについて確認しておく。
(1) economic
定義:†a. Pertaining to the management of a household,
or to ordering or private affairs (obs).
b. Relating to private income and expenditure.
例文:His outlooks into the future, whether for his spiritual
or economic fortunes, we confused. (Steroing I. ix (1872). 55)
(2) economical
定義: Pertaining to a household or its management;
resembling what prevails in a housed hold.
例文:Adam had only economical power, but not political.
(Sir. R. Filmer Patriarcha ii. §2.)
III-2. 形容詞historical – historicの場合
形容詞historical – historicの基体となる語は、名詞historyである。OED2によれば、名詞historyがいまのような綴りで最初に使われたのは、1563年である。単語が派生した順は次の通りである。
history (1563) → histor - [+y] +[+ical] (1614) → historic - [+al] (1669)
形容詞historical – historicの場合においても、名詞形から-cailを付加して形容詞を作り、-icが接尾辞となる形容詞に変化したことが確認できた。ここでは、OED2から確認で来た初出年度におけるhistoricalとhistoricの定義と例文について示したい。
(1) histrical
定義:Of or pertaining to history; of the nature or character of history,
constituting history; following or in accordance with history.
例文:The bulk and gross of his narration was founded upon
mere historical truth. (Raleigh Hist. World III. ii. §3 (R))
(2) histric
定義:Of or belonging to history; of the nature or character of history;
esp. of the nature of history as opposed to fiction or legend.
例文:Evident from sacred Historic Observation.
(Gale Crt. Gentiles I. II. viii. III)
III-3. 形容詞electrical – electricの場合
名詞electricityと形容詞electrical–electricの関係は、III-1およびIII-2で扱ったタイプとは違う...