アテナイの訴追制度は大きく分けて「民衆訴追」と「オストラキスモス」の2種類に分類される。
民衆訴追はアテナイの民主制象徴のひとつとされる制度である。この制度のもとではアテナイ市民たるものは、何人でも、他人に対して加えられた行為であっても、実際の被害者同様に加害者を訴追できる制度である。BC5世紀では国家的・社会的法益に対する犯罪については、検察実務を行う役人が事件のたびに選挙によって選出されたが、4世紀になると市民であれば誰でも訴追できる制度に変化した。民衆裁判所が扱う事件は「私法上の訴訟」と「公法上の訴訟」の2種類がある。ここにいう私法、公法は現在の民事、刑事とは異なる概念である。民衆訴追の対象となるのは「公法上の訴訟」に限られた。因みに、殺人罪は私法上の訴訟に分類され、告発権は遺族に限り認められた。
民衆訴追の目的は、国民の誰でも同胞が苦しんでいるのを見て、黙認せずに己の痛みの如く共感し、国法に訴えることにより正義を重んじる国政を生み出そうとした点にある。しかし、その制度を乱用するものが現れたため、それに対応する策も必要となった。具体的には告訴を途中で取り下げたり、裁判において陪...