ドメスティク・バイオレンス
はじめに
ドメスティック・バイオレンスを学習して、その構造から、身体的に傷を負う人もいるのは承知の通り。しかし、「D・Vのサイクル論」しかり、精神的に傷を負う人の方が、さらに周りから分かりにくく、そして自覚もし辛いのではないかと思い、考えてみることにした。
共依存 co-dependence
アルコール依存症の夫に苦しめられながら世話をし続ける妻が、結果的には夫の問題行動を支えている、という点から生まれた概念。ドメスティック・バイオレンスにも見られ、現在では機能不全の家族一般に対して用いられる。共依存では、人間関係へのアディクション(嗜癖)という点が問題になる。共依存関係に陥る人は「自分」を喪失していて、相手に必要とされることによって無意識に自分の存在価値を見出している。
(電子ブック版「朝日現代用語・知恵蔵2005」)
ドメスティック・バイオレンスの講義の中で、一番共感できたのがこの事項である。私の周りでは「世話焼きタイプ」、「姉御・兄貴タイプ」の相手には、いわゆる「へたれタイプ」がくっついてしまった、なんて事がよくある。中学で生徒会長を勤めていた私の幼馴染も、例外なくこの構造に当てはまり、何人か付き合った女性はいずれも、誰かそばにいないと駄目で、浮気をされたり、援助交際をしてしまった、などと相談を受けたことがある。「そんな人だったら、別れちゃえばいいのに」と言うのだが、「今回だけは許した」と言い、相手も謝ってもとの鞘に戻るのだと言う。挙句、「そういう放っておけない人に弱いんだよ」と自己分析していた。そこまで分かっているのにそういう関係をずるずる続けてしまうのだ。私は不思議に思った。彼のように正義感が強い人が、共依存に当てはまるのだろうか、と。彼は3人兄弟の長男で、生徒会長を勤め、周囲の期待に常に応えなければならない状況下にあった。言い換えれば、周りの価値観が自分の価値観に変換されてしまっているので、自己価値観が低いのだ。つまり、「世話焼きタイプ」もこの手の人が大多数で、「相手に必要とされることによって無意識に自分の存在価値を見出している。」うちの一人なのだと考えられる。
そうすると、かなりの人が、一緒にいるパートナーによってはこの悪循環に巻き込まれていく可能性が極めて高い、というわけだ。
PTSD Post-traumatic Stress Disorder
PTSD(心的外傷後ストレス障害)、最近頻繁に耳にする言葉だ。
配偶者やパートナーからの暴力「DV(ドメスティック・バイオレンス)」を受けた女性の7割以上が、PTSD(心的外傷後ストレス障害)かPTSDに近い症状を示し、2割は自殺を試みたり計画したりしていたことが、厚生労働省研究班の調査で分かった。
(『読売新聞』2005年6月3日朝刊)
と、ある。D・V後、傷の治療は進められても、心の治癒はされていない証拠である。目に見えない傷の方が残るのは、たかだか20年の人生の中でも分かる。しかも、
PTSDと診断された女性は、そうでない女性に比べ、受けた暴力の中で「心理的な攻撃」や「性的な強要」の度合いが特に高いことも分かった。
(『読売新聞』2005年6月3日朝刊)
というから、益々深刻である。実際のところ、このようにD・V被害者がPTSDになっていたとしても、保護して、心理カウンセラーと治療していくという機関は日本にどれだけあるだろう、ほとんどがそのようなものの存在すら知らないだろう。現在民間シェルター(緊急避難施設)というものがあるが、それも保護してからそんなに長い年月いられない。まして、傷を癒して、職業復帰するための訓練の時間もないのは、その数があまりに少ないことを物語っている。これではD・V被害者が専業主婦で、何の免許も取得していないとすれば、社会的に孤立してしまい、自立できずに、またもとのパートナーの目の届くところで、恐怖におびえながら生活するしかない被害者も出てきてしまう。
まずはD・V自体の存在や定義を広め、早急な措置が取れるようにする必要がある。
参考文献
電子ブック版「朝日現代用語・知恵蔵2005」
『読売新聞』2005年6月3日朝刊
小西聖子 「ドメスティック・バイオレンス」2001年 白水社