大学院のレポート課題。
事業所得・一時所得・雑所得の所得区分について判例をまとめて多少コメントしたもの。
司法試験H21年についても少々。
レポート課題 営利を目的とする行為と所得区分を選択
第1 総論
問題文で指摘されているように事業所得・一時所得・雑所得は「営利性」「対価性」「事業と言えるか」などの様々な要素を考慮して区別される。
①一時所得と雑所得、または、②事業所得と雑所得かを検討し区別する実益は、①については、担税力の違い(一時所得は2分の1課税)から生じ、②については、損益通算(所得税法69条1項)の可否より生じる。そのため、裁判等で両当事者が「営利性」「対価性」の有無、「事業と言えるか」について主張を争わせることになる。よって、上記3つの所得を区別する基準につき以下で検討する。
第2 一時所得と雑所得との違い
1 論述の流れ
以下で、雑所得かを決するメルクマールである「対価性」「営利性」(対価性を中心に)について、それぞれ先例等を見た上で判例の当否や射程を検討する。
2 「対価性」について
(1) 先例
・東京高判昭和46年12月17日判タ276号365頁(「対価性」について)
管財課長が受け取ったリベートの所得区分(一時所得または雑所得)が問題となった事案(授業で取り扱った)で「『対価性』は、弁護人のいうごとく給付が具体的な役務行為に対応する場合に限られるものではなく、本件のごとく、給付が一般的に人の地位、職務行為に対応、関連してなされる場合をも含むと解するのが相当であるから、前記収入は、同法条にいう『対価性』を備えたものであるのみならず、一時的な性質を有するものでもないから、一時所得ではなく雑所得を構成するものと認める。」として、「対価性」要件を緩和している。
(2) 先例の射程 ~近時の判例を参考に~
ア 東京高判平成23年6月29日・・・「対価性」について
(事案)
組合Aは,株式会社B(上場会社,ねじの製造販売)が発行する株式,新株予約権等に投資すること等を目的として,成立した。X は,組合Aの業務執行役員であるC株式会社との間で投資事業組合契約を締結し,非業務執行組合員(出資口数290 口)となった。
組合Aが,B 社から有利な条件で新株予約権を割り当てられたため,組合Aの組合員X は,出資口290 口のうち,190 口を行使し,これによる経済的利益(以下,「本件経済的利益」という)を取得した。
X は,本件経済的利益を当初,「雑所得」として修正申告をしたところ,課税庁はその経済的利益の算定方法が適切ではないとして更正処分等を行った。X は,本件経済的利益は「一時所得」であり,かつ,新株予約権に係る経済的利益の計算について誤りがあるとして,原処分取消のため訴訟提起をした。
(争点)
本件経済的利益が一時所得か雑所得かについて、Xは非業務執行組合員であるため、「労務その他役務の対価」(所得税法34条1項、対価性)があるかが争点となった。
(判旨)
当該判旨をまとめると以下のようになる。
まず、「対価性」の意義については、前述の東京地判昭和45年12月17日と同様に、一時所得の担税力の低さに鑑み、「『労務その他役務の提供』とは、給付が具体的又は特定的な役務行為に対応する等価の関係にある場合に限られるものではなく、広く給付が抽象的又は一般的な役務行為に密接に関連してなされる場合を含む」とした。
次に、本件の事情についての判断は以下の通りである。
「本件組合は、B社の企業再生を目的として本件スキームに基づいて組成されたものであり」「組合員に権利行使による経済的利益が帰属することは、本件スキームの一環である」とした。その上で、業務執行組合員F社がB社の企業再生のため、新規事業の情報提供等を本件組合員として行っている点、及び、非業務執行組合員A社が、C社にたいして新規事業の提案等をしたことは、B社黙示の承認のもと、B社のためになされた点が「労務その他の役務」にあたり、本件経済的利益は「役務の対価」としての性質を有するとした。
その上で、かかる役務提供につき、Xについても役務提供を行ったと判断している。
(私見)
同裁判例について考えを数点以下で述べる(結論として雑所得と認めることは妥当と考える)。
① 判旨の論理及びその評価について
本裁判例において、事案の評価の段階では、Xが直接行った行為については特段認定せず、業務執行組合員の役務提供行為の存在を間接事実として認定することで、非業務執行組合員たるXの「役務の提供」を認定している。これは、組合におけるパススルー理論を意識した認定であると考えられる。
そうすると、先例と同様に「抽象的又は一般的な役務行為に密接に関連してされる場合を含む」と「役務の提供」を広く認めて「対価性」要件を充足しやすくしておきながら、なぜXの出資行為が「労務その他の役務」の提供に当たるかを直接判断しないのかを問題にする余地はあると考えられる。
私見としては、裁判所は出資行為だけでは「役務の提供」をしたことにならないと考えている可能性があると考える。その考え方を前提とすると、投資関係の課税問題として、「役務の提供」とその結果たる経済的利益との関係につき、裁判所が「役務提供の見返り」と認めるためには、出資行為に加えて、「出資対象に対しての何らかのアクション」を認定することが要求されている(少なくとも「役務の提供」ありとの認定がなされやすい)。この問題は、出資者と管理者(執行者)とが異なる場合に検討することになると思われる。
本件裁判例を前提にすると、上記「何らかのアクション」はスキーム(本件では組合。信託なども含まれる?)によっては出資者自身の行為である必要はなく、スキーム内の機関等によるアクションでもよいというということを示唆していると考える。
なお、「何らかのアクション」を要するという仮定は、(判断主体が異なる点は差し置くと)後述イにおける経済的利益が雑所得として認定されるために、出資行為に加えて、「請求人の会社への強力義務が継続していることの地位」を認定した上、それが「継続することの見返り」として位置づけたことと整合する。
② 判旨の規範とその適用についての評価
先例などが経てた規範との関係では、組合の利益が直接組合員に帰属する性質を考慮すると、出資者のした行為自体に着眼して、所得区分を判断することが素直だとも考えられる。
そうすると、(課税庁側の思惑として、2分の1課税という一時所得の担税力の低さを考慮してのことか)「対価性」を広く解して、出資行為自体が「抽象的又は一般的な役務提供に密接に関連している」から、「役務の提供」に当たり、本件経済的利益がその対価であるとして「対価性」要件を充足する、という説明もあり得ると考える。ただ、そうすると、「対価性」要件としては広範に認めすぎるという批判も考えられる。確かに、雑所得は所得区分の中では補充的(バスケット条項的)な性格を有しているから、「対価性」要件を広げ過ぎると、雑所得と認定される可能性が高くなる。雑所得のかかる性格に鑑みると、「対価性」の認定についてある程度の歯止めをかけることも検討する余地があると思われる。
③ 両説明の当否
どちらの説明が妥当かを決するのは困難であるが、考慮要素としては、①パススルー理論を重視すると、出資者Xの行為自体を捉えて対価性の有無を検討するべきである。他方、②雑所得の補充的性格に鑑み、「対価性」を過度に認めないと考えるならば、本裁判例のように、出資対象との何らかの関わり合い・働きかけを認定した上で、出資行為にも「役務の提供の見返り」としての性質が認められるという構成を取ることが妥当であると考える。
イ 裁決事例集NO75,229頁(配布資料記載、授業で取り扱った)
(判断主体が異なるが)授業で取り扱った「裁決事例集NO75,229頁(新株予約権の行使に係る経済的利益)との関係を検討すると、同裁決における請求人は本件におけるF社(組合Aの業務執行役員)のような実際に役務を提供する(予定)者であることから、同事例と比較すると、実際の事業に何らかの関与をしていたわけではない本件の非業務執行組合員Xでも「役務の提供」ありとした点で、本件はより「対価性」の範囲を広げていると言える。
3 「営利性」について
(私見)
前提として、「営利性」単独で認定をすることは困難であると考える。なぜなら、問題となった行為が継続的に行われれば、事業活動の一環と認めやすくなるなど、他の要素といわば相関関係にあると思われるからである。
他の判例及びはずれ馬券の最高裁判決(最判27年3月10日)を見る限りでは、(利益の原因となった行為の性質が娯楽等「消費」的な性質を帯びない限り)何らかの行為をしたことにより経済的利益を得た場合は「営利性」を認めやすいように思われる。そうすると、一時所得と雑所得との区別において「営利性」は、それがないことを積極的に認定することにより一時所得の要件を満たすいわば消極要件のような形で機能するように思われる。
また、「対価性」の問題の所で指摘したのと同様に、「営利性」についても雑所得の補充的な性格から検討する余地があると言える。
第3 事業所得と雑所得との違い
1 論述の流れ
ここでは、事業所得と雑所得との区別について、判例を説明した上で、想定事例を検討する。
2 判例
ア 最判昭和53年10月31日訟務月報25巻3号889頁・・・事業所得との区別
(事案・争点)
株式投資の信用取引で被った損失を損益通算できるかが争点となった事案である。
(判旨)
本件の信用取引が事業として認められる考慮要素として「一定の経済的行為が反...