言語学の祖と言われるフェルナンド・ド・ソシュールと言語学に革命をもたらしたと言われるノーム・チョムスキーは、それぞれ違った形で言語使用者共有の言語体系を定義した。以下、両者の言語体系の捉え方の異同を論じる。
ソシュールは、言語の遂行的側面をパロール(parole)、言語活動を可能にするための知識の総体をラング(langue)と定義した。一方チョムスキーは、実際の言語の運用を言語運用(performance)、言語運用を可能にする知識の総体を言語能力(competence)と定義した。両者とも、言語を「運用と知識」という二つの側面に分けて定義しているが、その知識体系の位置づけは両者間で大きく異なる。
ソシュールがラングとパロールを切り離して考えたのは、パロールに見られる個々の発話は多様で雑多であるが故に言語学の研究対象としてはそぐわないから、という利便性からでもあった。また、ソシュールがラングを「言語研究を行う上での便利な存在」として捉えていただけなのか「言語の中枢的な存在」とも捉えていたかは実ははっきりしていない。一方、チョムスキーがcompetenceとperformanceを切り離...