書評レポート 『ブランドが神話になる日』 ダグラス.B.ホルト
■本書の概要
本書は、マインドシェア・ブランディング、マインドシェア・ブランディング、エモーショナル・ブランディングといった従来の通説的なブランディング・モデルとは一線を画する、“カルチュラル・ブランディング”というブランディング・モデルを提出したものである。著者によれば、戦後米国の消費市場において強力な市場地位を確立したコカコーラやスナップルといったブランド群は、マーケティング活動を通じて大きな社会的矛盾を衝いた “神話”を演じることによって人々の心と結びつき、名優や名画といった文化的イコンに匹敵するアイデンティティ価値を獲得したとされる。筆者はこれを“イコン的ブランド”と呼び、こうした地位を獲得するためのブランディング活動を“カルチュラル・ブランディング”と定義している。その上で、カルチュラル・ブランディングはこれまでも広告代理店のクリエイティブたちの間で経験的・暗黙知的に行われてきたものの、理論として体系化・形式知化されてこなかったと指摘し、本書において具体的な事例を豊富に示しながらその理論を体系的に提示している。
■本書の主な論点
本書はイコン的ブランドがイコン的ブランドたる地位を確立・維持する為に必要な施策としていくつかの論点を提示している。例えば以下の4点ということになろう。
(1)時代や社会の変化に応じて常に新しい神話市場に通じる神話を創り出すこと
ある時代・社会において神話市場が形成されていても、文化的混乱が訪れれば神話市場は崩壊することになる。イコン的ブランドを維持するためには、常に新しい神話市場に対応した神話を作り続けなければならない。
(2)そのブランドに最も相応しい神話市場を見極め、そこに繋がる物語をクリエイティブに作らせるようにすること
従来型のブランディング・モデルでは、ブランド・マネージャーがクリエイティブの内容を体系的に管理することが難しかった。しかし、カルチュラル・ブランディングにおいては最もふさわしい神話市場に向けてクリエイティブを戦略的目的に沿って方向付ける事が可能である。
(3)ブランドが既に持っている文化的・政治的権威をブランド・エクイティとして活用すること
イコン的ブランドは、自らが持つ強力な神話を背景として文化的・政治的権威を持つ。これを社会的変化に重ね合わせながら活用することによってイコン的ブランドとしての地位を維持することが出来る。
(4)社会的ネットワークを利用して顧客のブランド・ローヤリティを創り出すこと
イコン的ブランドの神話に強く共鳴する“フォロワー”と呼ばれる顧客群、オピニオンリーダーとしての役割を果たすインサイダー、ブランドが生み出す社会的・文化的価値に寄生するフィーダーの相互依存関係を顧客のブランド・ローヤリティ向上に活用する事が出来る。
■本書の主な論点に関する考察
前頁で本書の概要、重要な論点について簡単に要約したが、本頁ではそれについて私なりに考察を加える。
まず、(1)【時代や社会の変化に応じて常に新しい神話市場に通じる神話を創り出すこと】、(2)【そのブランドに最も相応しい神話市場を見極め、そこに繋がる物語をクリエイティブに作らせるようにすること】の2点について考察したい。
本書で取り上げられているバドワイザーの事例は、確かにこの理論を効果的に実践している好例であろう。日本の消費市場においてこれが適切に実践された例を探すと、例えばドリンク剤「リゲイン」のTVコマーシャルであろうか。ドリンク剤の主なタ
書評レポート 『ブランドが神話になる日』 ダグラス.B.ホルト
■本書の概要
本書は、マインドシェア・ブランディング、マインドシェア・ブランディング、エモーショナル・ブランディングといった従来の通説的なブランディング・モデルとは一線を画する、“カルチュラル・ブランディング”というブランディング・モデルを提出したものである。著者によれば、戦後米国の消費市場において強力な市場地位を確立したコカコーラやスナップルといったブランド群は、マーケティング活動を通じて大きな社会的矛盾を衝いた “神話”を演じることによって人々の心と結びつき、名優や名画といった文化的イコンに匹敵するアイデンティティ価値を獲得したとされる。筆者はこれを“イコン的ブランド”と呼び、こうした地位を獲得するためのブランディング活動を“カルチュラル・ブランディング”と定義している。その上で、カルチュラル・ブランディングはこれまでも広告代理店のクリエイティブたちの間で経験的・暗黙知的に行われてきたものの、理論として体系化・形式知化されてこなかったと指摘し、本書において具体的な事例を豊富に示しながらその理論を体系的に提示している。
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