第一章 石炭の利用に起因する大気汚染の現状
資源とエネルギー供給の条件から、中国での消費エネルギーは石炭が中心となっている。そのため、石炭は中国エネルギー消費総量の70%以上も占めている。中でも、化学工業原料の60%、民生用エネルギー商品の80%が石炭によって供給され、電力も80%が石炭火力発電によるものと言われている。石炭燃焼による大気汚染が中国の自然環境にあたえる脅威は日増しに深刻なものになっている。
しかし、1995年8月29日「中華人民共和国大気汚染防止法」が中国人民代表大会を経て施行され、エネルギー転換を進めた結果、1996年をピークにエネルギー消費構造に占める石炭の割合はだんだん減少する傾向にある。
1節二酸化硫黄
二酸化硫黄は硫黄分を含む石炭の燃焼により生じる。中国の硫黄酸化物の排出量は世界第3位である。それは中国のエネルギー消費の約70%が石炭に依存しており、しかも一般に硫黄の含有量が多いため、二酸化硫黄の重大な発生原因となっている。中国で二酸化硫黄濃度が一番高い地域と言えば、大陸南西部の重慶市と貴陽市である。これは中国南西地域の石炭中の硫黄含有量が多いことを反映しているものと推定される。
日本では、排煙脱硫装置等の対策を講じて、昭和40年代、50年代に比べ、二酸化硫黄濃度は著しく低下した。中国では、日本等の脱硫装置技術は高機能であるために、その分高価格であり、運転、維持管理のコストも高くなり、中国国内での普及は難しい。よって、中国では石炭から天然ガスや石油への転換や、粉炭に脱硫剤として植物性成分や消石灰を添加して直接高圧整形した低公害化ブリケットの開発、普及などを進めている。
このようにエネルギー転換を進めた結果、近年中国のエネルギー消費構造に占める石炭の割合は、少しずつ減少している。
はじめに
WTOへの加盟が中国経済に及ぼす影響は広範で多様である。WTOによって中国の市場開放はさらに進み、中国企業も外国の競争力のある製品や企業との激しい競争にさらされる。その一方、製造業の国際移転は中国経済の発展に貢献はしているが、その反面で新たな環境問題をもたらす原因となっている。中国ではこれら経済発展に先行する国々の環境問題を引き受ける形で、環境問題の悪化が進んでいる。
現在、中国は「環境問題のデパート」と呼ばれるほど多様な環境問題が存在している。その中でも特に注目を集めているのが大気汚染の問題である。石炭燃焼は大気汚染の中心と言われているが、中国の一次エネルギー源の78%以上が石炭である。石炭を燃焼する際に放出される硫黄酸化物は日本の排出量の約20倍に、世界の排出量の15%に相当する。同様に煤塵、二酸化炭素などの7割以上が石炭燃焼によるものと言われている。
今後も石炭中心のエネルギー需給構造が継続すること、そしてその結果、国境を越えて日本、韓国にも影響を及ぼす酸性雨の発生も拡大、継続の可能性が大きいことを考えると、日本からの環境技術移転は非常に期待される。しかし、日本のような...