以前雑誌に投稿してリジェクトされた論文です。ディスクロージャー優良企業のデータを使って、その業績予想において保守的な予測を意図的に行っているかどうかをJonesモデルから統計的に分析しました。
参考文献
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ディスクロージャー優良企業における業績予想の在り方
―業績予想の正確性を軸とした検討―
1. はじめに
1.1. わが国独自の業績予想開示制度
わが国では、証券取引所が上場企業に対して、経営者による業績予想を公表させる制度が定着している。この予想利益が、一般に「経営者予測」[森・関, 1997, p.253]と呼ばれるものである。これは、わが国独自の制度であり、他国に類を見ない制度である[西・金田, 2009, pp.269-270]、[関, 2002, p.189]、[高橋, 1990, p.118]。もちろん、米国にも業績予想を開示する企業は存在するが、制度で要請されているものではない。つまり、「米国における経営者による予想利益は、自発的ディスクロージャーといえる」が、「これに対しわが国では、経営者による予想利益は、証券取引所が適時開示と称する決算短信と業績予想の修正において発表している」[西・金田, 2009, p270]。すなわち、制度による要請がある点が、1974年に決算短信が制度化されて以来のわが国の特色である。
1.2. 経営者予測をディスクロージャーする有用性
一般に、過大あるいは過小に価格形成されている証券の発見に役立つことから、経営者予測は有用であるといわれている[森・関, 1997, p.253]。この経営者予測が、投資家の意思決定に有用である結果は、これまで数多く示されてきた[関, 2007, p.1]。したがって、この経営者予測が、どの程度正確であるかは投資家にとって重要な問題である。なぜならば、「その予測精度が高ければ高いほどそれを自らの意思決定に反映させると考えられる」[森・関, 1997, p.253]からである。
また、東京証券取引所[2006, p.9]が上場企業にアンケート調査をした結果では、「業績予想を開示した」と答えた企業が、96.8%であった。さらに、業績予想を「有用な情報である」と答えた企業も95.3%にのぼった。したがって、開示側の企業にとっても、業績予想は有用な情報であると考えられているといえよう。経営者予測は、投資家への重要なメッセージとなっている。さらに、関[2007, p.1]が示すように「過去の研究において、予測値を上回るような業績を示した企業は株価も上昇しており、予測値と実績値の差異がプラスかマイナスかという符号の向きと株価動向は一致している」という事実がある。株価の変動には企業も投資家も神経をとがらせている。つまり、経営者予測の乖離と株価動向が一致するということは、企業も投資家も経営者予測の正確性に注意を払うはずである。したがって、企業・経営者双方が経営者予測を重視すること自然なことである。
1.3. 制度面に関連した業績予想に関する正確性の要求
制度面からも企業に正確な業績予想を行うことを要求している。なぜなら、業績予想と実績値に著しい乖離が生じた場合、証券取引法166条、内閣府令第3条による定めにより、業績予想を修正しなければならないからである。業績予想の修正する基準は、売上高については、±5%、営業利益、経常利益、当期純利益については ±30%となっている。したがって、制度は企業に対して、正確な業績予想を要求している。
経営者予測は、そもそも正確でなければならないのである。
1.4. 問題意識と研究目的
経営者予測が正確であることを期待されている。ゆえに、経営者は業績予想通りの利益が出る経営をすることが正しいのだろうか。それとも、業績予想以上の業績を出すことが好ましいのだろうか。いずれにせよ、経営者は自らの予測に従って経営をするだろう。なぜなら、投資家が、正確な業績予想を期待する場合、経営者はその期待に応えなければならないからである。さらに、「応えることができなければ、様々な形でペナルティを受け、コストを支払うことになる」[富田, 1999, p.95]。しかし、企業の目的は最大の利益を出すことであって、業績予想に囚われる必要はないのではないか。富田[1999]も指摘するように、「市場から何らかの期待を持たれやすい企業は、もたれているだろう期待に反しないように、期首に予測した利益に近い報告利益を報告しよう裁量行動を実施する」[p.95]だろう。特に、ディスクロージャー優良企業は、株主との関係を重視しているため、株主からの期待も高い。よって、株主から向けられる業績予想への視線には敏感であると思われる。したがって、正確な経営者予測をしており、業績予想の誤差が少ない可能性がある。しかし、この可能性は本当に経営者予測が正確だったのかという問題を孕んでいる。第一に、わざと達成しやすい経営者予測を立てている可能性がある。第二に、実績との乖離を埋めるために会計操作を行っている可能性がある。本稿では、この両者の可能性について検証したい。この検証によって、経営者予測の信頼性を高める方法を考察することとしたい。
1.5. 研究概要
上場企業のディスクロージャー優良企業のうち、特にディスクロージャーが優れた企業を考察する。なぜなら、ディスクロージャーに積極的な企業ならば、株価に敏感であり、より業績予想を意識した経営をしている可能性があるからである。「市場から何らかの期待を受けやすい企業ほど、予測利益に近づけるように裁量行動を実施する」[富田, 1999, p.99]ことも実証されている。
つまり、特にディスクロージャーが優れた企業は、業績予想の誤差が少ないのではないか。仮に、業績予想の誤差が少なかった場合、方法は二つある。すなわち、予測値を制御するか、実績値を制御するかである。前者は、意図的に低い業績予想を立てていないかを調べればよいし、後者は、会計操作をしている可能性がないかを調べればよい。次節では、先行研究をレビューする。3節では、リサーチ・デザインを、4節では実証結果について解説する。5節では、考察を行い、6節では考察を踏まえて、効果的・効率的なIR手段として、あるべき業績予想の姿について提案したい。最終節では、本稿を総括することとする。
2. 業績予想に関する先行研究のレビュー
2.1. 誰が業績予想のリスクを負うべきか
財務諸表の役割は、2つある。第一に、未来情報の資料としての役割。第二に、過去の会計責任を明らかにする役割である[川口, 1978, p.14]。このうち、未来情報の種類は、白鳥[1978, p.25]によれば、以下の3種類に大別できる。①貸借対照表日現在、すでに発生している未来情報の開示。②貸借対照表日の翌日から財務諸表作成日までの期間に発生した未来情報、すなわち後発事項の開示。③翌事業年度以降に係る業績予測の開示。このうち③が、本稿で検討対象としている経営者予想(業績予想)である。ところが、現在では容易に入手可能な業績予想も、入手が困難な時代があった。たとえば、細田[1978,]は「これほど企業をめぐる利害関係者にとって必要にしてかつ価値高期情報である「予想損益」なるものは、皮肉なことにあたかも”幻の宝石”のごとく最も入手しにくい代物なのである。それは、企業自身にとって「予想損益」は最高の機密に属し、それを渇望する利害関係者に直接に開示されることはないからである」
[p.32]と嘆いている。
そもそも業績予想は、2つの問題を孕んでいる。①そのリスク査定は誰によったときに最も正確に近づくかという査定適任者の問題、②リスク査定が外れたとき、その失敗によって被る経済的損失をだれが負担すべきかという責任の所在の問題[川口, 1978, p.11]。①については、経営者予想が、過去の財務諸表に基づいた予想よりも正確であることが実証されている[國村, 1978, p.38]。②について、白鳥[1978]も述べるように「企業の業績予測を財務報告機能の範囲に含めることは、企業全体の評価を会計の範囲に含めることでもある。これは適性な会計の範囲を超えるものである」[p.30]ことは明らかである。さらに、「予測が外れても悪意の場合を除いて損失保証をしないという前提が認められなければ、企業による利益予測の公表は到底実行できないであろう」[川口, 1978, p.11]。したがって、投資家こそが予想が外れた際のリスクをとるべきである[白鳥, 1978, p.30], [川口, 1978, p.11]。つまり、企業側は、業績予想の正確性を気にするよりも、投資家が予想しやすい環境づくりをつくることが重要といえるだろう。
2.2. 業績予想を開示する是非
業績予想の是非を巡っては、様々な議論がある[大矢知, 1978, p.22‐23], [白鳥, 1978, pp.28-30], [川口, 1978, p.14]、[池田, 1995, p.69]など。本稿では、白鳥[1978, pp.28-30]の主張から、業績予想のメリット・デメリットを概観してみたい。まず。メリットは4つある。
1.投資家の意思決定に役立つ
2.アナリストが、より良い予測を行うことに役立つ
3.会社の計画能力の向上に役立つ。それと同時に、経営者が予測達成に最大限 の努力をおこなうような効果がある。
4.経営者が投資家に注意を促したいと望んでいる特殊状況を、公表することを 可能にし、その情報を広く流布させる結果にもなる。
反対に、デメリットは 12個にのぼる。
1.業績予測表は複雑になる上、非常に注意深い分析をおこなうことを強制する 結果となる。
2.事業予測を合理的に...