第二の産業分水嶺

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    第 5 回 マイケル・J・ピオリ( 1940 -)/チャールズ・F・セーブル (1947 -)
    THE SECOND I NDUSTRIAL DIVIDE 1984 年
    『第二の産業分水嶺』山之内靖他訳 1993 年
    「社会科学の名著を読むⅠ」三重大学人文学部 2003 年度特殊講義B 櫻谷勝美
    マイケル・J・ピオリ 労働経済論 MIT 教授
    `ƒ[‹YEeEZ[u‹ - ¡w MIT教授
    大量生産体制=巨大企業の成立が現代経済を有効に機能させていると見るチャンドラーに対して、ピオ
    リとセーブルは規格化され、画一化された大量生産品市場の欠陥を論じ、大量生産体制に代わるものと
    して「柔軟な専門化体制」を対置する。それを可能にする環境として、技術の伝承を保証する地域産業
    コミュニティーを育てなければならないことを強調する。
    <目次>
    第1章 序論
    第2章 大量生産体制-宿命かつ盲目的な選択
    第3章 巨大株式企業
    第4章 経済の安定化
    第5章 グローバルな視点・ミクロの視点
    第6章 保存された諸事例-アメリカ以外の諸国における大量生産体制とクラフト的生産体制
    第7章 大量生産体制の危機
    第8章 危機に対する企業の反応
    第9章 歴史、現実、および各国の戦略
    第10章 繁栄の条件-ケインズ主義の国際化と柔軟な専門化
    第11章 アメリカと柔軟な専門化
    (その1)
    第1章 序論
    1 大量生産体制が製造業の全分野を制覇している。失業問題や経済の低成長などほとんどの先進国
    が慢性的に悩まされている問題は、解決されないまま残されている。時代は病んでいる。
    2 その原因は、先進国の経済に内在する問題である。経済活動の衰退は、大量生産体制に基づく産
    業発展モデルの限界によって引き起こされた。
    3 「大量生産体制」とは、特定製品だけを加工する機械を使用して、画一的製品しか生産できない半
    熟練工の労働をさしている。
    4 既存の経済体制が突き当たっている第一の危機とは、生産と消費の釣り合いを確保することが困難
    になったこと、すなわち生産と消費を結びつけている制度的回路の調整機能の危機である。第二の
    危機は、技術選択そのもの、すなわち大量生産技術の限界である。
    5 新古典派(リベラル派)の議論は、経済停滞の原因は経済に対する国家の介入にある、市場におけ
    る自由競争こそ、資源(資金・労働を含む)の適切な配分をもたらすはずである、しかし大衆の政治
    参加は国家財政への過大な要求となる、と考える。
    →大衆の要求する福祉政策と国家のマクロ経済コントロールの両者は、市場を麻痺させる。政治介
    1
    入から企業を守るなら、企業間の自由競争が行われ、経済停滞はなかった。政治の力で経済再建は
    果たせない。市場的資本主義と政治的民主主義の両者は矛盾するので、前者を尊重すべきである
    というのが新古典派の考え方である。(10-11p) しかし、これははじめから経済停滞の原因を国家と
    経済の関係に限定してしまっている。
    6 我々が、考えるべき事柄は、
    ① ある特殊な技術が工業生産を規定するようになったのはなぜか?
    ② その技術選択を放置しておくとどのような調整の危機が起こるか?
    ③ 現在進行中の経済的不安定性をきっかけとして、技術選択のオールタナティブは可能か?
    ④ アメリカが他国に先駆けて大量生産体制のある特異な型を伸張させたのはなぜか?
    ⑤ 他国はアメリカから影響をうけ、アメリカに追随するにいたったのはなぜか?
    ⑥ 各国によって異なる大量

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    資料の原本内容

    第 5 回 マイケル・J・ピオリ( 1940 -)/チャールズ・F・セーブル (1947 -)
    THE SECOND I NDUSTRIAL DIVIDE 1984 年
    『第二の産業分水嶺』山之内靖他訳 1993 年
    「社会科学の名著を読むⅠ」三重大学人文学部 2003 年度特殊講義B 櫻谷勝美
    マイケル・J・ピオリ 労働経済論 MIT 教授
    `ƒ[‹YEeEZ[u‹ - ¡w MIT教授
    大量生産体制=巨大企業の成立が現代経済を有効に機能させていると見るチャンドラーに対して、ピオ
    リとセーブルは規格化され、画一化された大量生産品市場の欠陥を論じ、大量生産体制に代わるものと
    して「柔軟な専門化体制」を対置する。それを可能にする環境として、技術の伝承を保証する地域産業
    コミュニティーを育てなければならないことを強調する。
    <目次>
    第1章 序論
    第2章 大量生産体制-宿命かつ盲目的な選択
    第3章 巨大株式企業
    第4章 経済の安定化
    第5章 グローバルな視点・ミクロの視点
    第6章 保存された諸事例-アメリカ以外の諸国における大量生産体制とクラフト的生産体制
    第7章 大量生産体制の危機
    第8章 危機に対する企業の反応
    第9章 歴史、現実、および各国の戦略
    第10章 繁栄の条件-ケインズ主義の国際化と柔軟な専門化
    第11章 アメリカと柔軟な専門化
    (その1)
    第1章 序論
    1 大量生産体制が製造業の全分野を制覇している。失業問題や経済の低成長などほとんどの先進国
    が慢性的に悩まされている問題は、解決されないまま残されている。時代は病んでいる。
    2 その原因は、先進国の経済に内在する問題である。経済活動の衰退は、大量生産体制に基づく産
    業発展モデルの限界によって引き起こされた。
    3 「大量生産体制」とは、特定製品だけを加工する機械を使用して、画一的製品しか生産できない半
    熟練工の労働をさしている。
    4 既存の経済体制が突き当たっている第一の危機とは、生産と消費の釣り合いを確保することが困難
    になったこと、すなわち生産と消費を結びつけている制度的回路の調整機能の危機である。第二の
    危機は、技術選択そのもの、すなわち大量生産技術の限界である。
    5 新古典派(リベラル派)の議論は、経済停滞の原因は経済に対する国家の介入にある、市場におけ
    る自由競争こそ、資源(資金・労働を含む)の適切な配分をもたらすはずである、しかし大衆の政治
    参加は国家財政への過大な要求となる、と考える。
    →大衆の要求する福祉政策と国家のマクロ経済コントロールの両者は、市場を麻痺させる。政治介
    1
    入から企業を守るなら、企業間の自由競争が行われ、経済停滞はなかった。政治の力で経済再建は
    果たせない。市場的資本主義と政治的民主主義の両者は矛盾するので、前者を尊重すべきである
    というのが新古典派の考え方である。(10-11p) しかし、これははじめから経済停滞の原因を国家と
    経済の関係に限定してしまっている。
    6 我々が、考えるべき事柄は、
    ① ある特殊な技術が工業生産を規定するようになったのはなぜか?
    ② その技術選択を放置しておくとどのような調整の危機が起こるか?
    ③ 現在進行中の経済的不安定性をきっかけとして、技術選択のオールタナティブは可能か?
    ④ アメリカが他国に先駆けて大量生産体制のある特異な型を伸張させたのはなぜか?
    ⑤ 他国はアメリカから影響をうけ、アメリカに追随するにいたったのはなぜか?
    ⑥ 各国によって異なる大量生産体制の生成過程が、危機に呼応する仕方への影響?
    7 上のことを検討する場合、第一の産業分水嶺(大量生産体制採用)で形成された技術的発達の慣
    習に固執した国と、クラフト的生産の原則を保存した国との二種類に分けることができるだろう。19p
    8 我々は、スミスやマルクスのように経済的成功の「必然の経路」は存在するとは考えない。特定の型
    が勝利したのは技術そのものの優秀性によるのではなく、勝者が利用したタイミングと資源次第であ
    ると考える。20p
    9 我々の未来を構築するにあたり、これまでの歴史がどうであったかを考え直すだけでは十分ではな
    い、我々の過去についての理解の仕方をも変えなければならないであろう。
    第 2 章 大量生産体制-宿命かつ盲目的な選択
    10 19 世紀を通じて技術的発展の二つの形態が相争ってきた。一つはクラフト的生産で、もう一つは大
    量生産体制である。クラフト的生産は、機械と作業工程は熟練工の能力を高め、労働者の知識を生
    かすことによって常に変化に富んだ製品を作り出す。
    大量生産体制の原理は、ある特定の製品を作り出すために必要な人間の技能が機械によって代行
    され、コストが一挙に削減される生産体制である。大量生産体制の目標は、手作業を単純な工程に
    細分化し、この工程を専門化された機械によって、人の手によるよるよりも、速く正確に消化すること。
    労働者に専門的技能が必要でなくなるほど、コストは削減される。
    11 第一次大戦までには、大量生産体制が勝利し、1913年フォードのT型車がミシガンのハイド・パーク
    工場から送り出されたとき、大量生産モデルはその頂点に達した。部品を作る機械は精密であった
    ので、人間の手による仕上げは不必要、機械の操作は簡単で、伝統的クラフト的技術は不要であっ
    た。26p
    12 自動機械の導入とともに、職人と機械の役割が逆転した。労働者が機械の付属物になった。機械の
    目的は、生産における人間の関与を余計なものとして省くところにあった。
    (スミスやマルクスが考える)「進歩」は技能の排除と専門化したオートメーションを要求する。この必
    然性に従わない者は従った者に打ち負かされる。それが競争の論理である。33p
    競争を通して人類はその時点で考えられる最高のものを発見しうる、とみなされた。52p
    13 しかし、筆者の考えでは、競争とは人間の技能と機械の結合方式相互の競争であり、ある方式が成
    功したのはそれが優れていたからではなく、ちょうどその時の条件がその結合方式に有利に整って
    2
    いたからである。52p 勝敗を決めたのは効率性(人間の技能と機械の結合の適切さ)ではなく、市
    場に受け入れられたかどうか、つまり市場の力である。54p
    14 アメリカで大量生産方式が勝利したのは次の理由による。
    ① 19 世紀初頭の労働力不足、とりわけ熟練労働力不足→企業家は労働力を節約できる機械を
    必要とした
    ② 買い手は新世界への移民であり、味気ない規格品を望んだ→市場が技術を生み出す
    ③ アメリカは独立戦争の過程で、兵器の大量生産に成功した。工程を単純に分解した兵器生産
    →大量生産制は熟練工を必要としなかった
    ④ 鉄道網の拡充→地理的に分散している同質の需要を集合できた→市場が技術を生み出す
    15 しかし、生産効率を累積的に増加しようとする試みには決定的限界がある。産出量を増加させても
    それに見合う市場の拡大がなければ意味がない。
    16 ただ、効率性の増大→生産コストの低下→貧しい人も買える→市場拡大 で自己維持的に前進し
    たことは事実である。
    17 大量生産経済と相入れないものは、小企業であり、過去1世紀半の間、小企業の消滅が言われてき
    た。しかし1960 年代頃から小企業のバイタリティーを理論に取り込む必要が言われ出した。
    →産業の二重性論 35p
    18 産業の二重性とは、大量生産品を作る特殊機械は、限られた市場の特注品であり、それを作るには
    生産プロセスは職人的技術が必要。大量生産化はクラフト的セクターを不可欠な補完物とする。36p
    第3章 巨大株式企業
    19 大量生産体制は機械と労働者にたいする莫大な投資
    →単一で規格化された製品の莫大な産出量
    →それを吸収するほど大きい市場がある場合にのみ、利益
    →自然にまかせるのではなく市場を人為的に創出しなければならない
    20 コストは、生産量から独立した固定費用と、生産量に応じた可変費用からなる
    固定費用は特殊プラントや設備、専門的労働者養成費
    可変費用は、原料や労賃
    大量生産が進展するにつれ固定費用が増大
    →生産量が少なければ莫大な損失 : 生産量が莫大になれば大きな利益(表参照)
    21 大量生産が実現できるように市場組織化
    →規模の経済が進展する→効率の良いプラントの最小規模が大きくなる
    →利益の不安定性→一定量以上の生産量確保が至上命令
    →生産量コントロール→生産者間の協定→水平統合→市場自体の組織化
    水平統合の原因には鉄道は大口利用者の運賃を優遇した事情もある
    22 巨大企業達成後の生産量コントロールのための基本的手法
    ① 市場分断 需要のすべてを独占するのではなく、一部を弱小の同業者を残す。
    3
    好況の時業界フル操業、不況の時巨大企業のコストは低いので巨大企業だけ操業
    ② 在庫調整 需要が落ち込むと製品貯蔵、需要が拡大すると貯蔵から供給
    ③ 自動車の場合 異なるモデルでありながら実際は共通の部品
    (出所)73p
    23 労使関係の安定化
    賃金・労働条件を競争市場で決めるのではなく、組合懐柔のための高賃金=労働コストを市場から
    切り離す
    第4章 経済の安定化
    24 1930 年代の危機の本源的原因は、大量生産企業の登場にともなってあらわれた経済の構造的脆
    弱性
    25 投資の決定はコストではなく、稼働率の見込みによる103p →見込みが低ければ投資をしない...

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