~傷害の罪~
・保護法益:人の身体の安全である。
一 客体
1 他人の身体である。自傷行為は本罪を構成しない。
2 胎児性傷害と傷害の罪の成否
【胎児性傷害と傷害罪の成否】
*肯定説
胎児に対する傷害を認める見解
(理由)
一定段階の「胎児」は人であるという「解釈」が不可能とはいえない
(批判)
胎児を人とする類推解釈であり、罪刑法定主義に反する母体に対する傷害を認める見解
・その1 母体一部傷害説(判例)
(理由)
胎児は母体の一部であり、かかる胎児を侵害するのであるから、胎児性傷害は母体に対する傷害になる
(批判)
①胎児が母親の体の一部であるとすれば、自己堕胎は自傷行為として不可罰となるはずである。しかし刑法は、自己堕胎罪を処罰する規定(212)を置いている。②判例は錯誤論に関する法定的符合説的な考え方をとっているものと評することができるが、錯誤論が適用できるのは、実行行為の時に他の客体が人として存在することを要することは明らかであり、解釈論として無理がある。
・その2 母体機能傷害説
(理由)
傷害は広く生理機能の障害と据えられている
(批判)
母親の生理機能の一部が侵害されたために胎児に傷害が生じたというよりは、胎児が侵害されたとみるのが自然であり、この説明はあまりにも技巧的だといわざるを得ない。
・その3 生まれてきた「人」に対する傷害を認める見解
(理由)
たとえば、人を傷害する目的で落とし穴を掘ったところ、その後生まれた幼児がその穴に転落して負傷した場合に傷害罪が成立するように、過失行為による侵害作用が及んだ時点で、客体の法的性質が人であることは必ずしも必要でなく、人に対する致死の結果が発生した時点で客体である「人」が存在すれば足りる。
(批判)
①傷害は状態犯であり、結果発生と同時に犯罪が完成する。そうだとすれば、胎児にすでに傷害が及んだ以上そこに既遂時期を認めないのは不自然である。②このような形で「人」に対する傷害を認めると、実質的に胎児自体に対しての傷害を認めたことになってしまう
*否定説
(理由)
①刑法は堕胎の罪によって胎児の生命を独立に保讃しているから、実行行為の時に胎児であったものについては、堕胎罪以外に成立する余地はない(診誤って母体内で胎児を死なせても過失堕胎として不可罰であるのに対し、誤って胎児に傷害を与え、それが子供に残った場合に過失傷害・過失致死で処罰するのは不均衡である。
(批判)
①人が傷害を負い、死亡したという事実を無視することは妥当でない。②過失堕胎が処罰されないのは証明が難しいからであるが、傷害を受けた子供が生まれた後では、行為者の過失と傷害との因果関係の証明は難しいことではない。
二 結果
「傷害」である。
1 傷害の意義
「傷害」とは、人の生理的機能を害することをいう(争いあり)。
【傷害の意義】
A説:生理機能障害説:人の生理的機能に障害を加えること。(判例)
(理由)
①傷害の概念を論ずる実際的意義は暴行との区別にあるから、傷害と暴行との質的差異を重視し、傷害の意義を健康状態を不良に変更することに限定して捉えるべき。②「傷害」という言葉のもつ日常用語的意味を重視するべき。③暴行罪の法定刑の上限は懲役2年と比較的高いので、傷害を限定的に解しても、実際上不都合な結果は生じない。
(批判)
たとえば女性を丸坊主にする場合でも「傷害」でないといえるかは疑問であり、「傷害」の概念を不当に狭くするものである。
B説:身体完全性侵害説:人の身体の完全性を害すること
(理由)
被害者の側からみて、重大な
~傷害の罪~
・保護法益:人の身体の安全である。
一 客体
1 他人の身体である。自傷行為は本罪を構成しない。
2 胎児性傷害と傷害の罪の成否
【胎児性傷害と傷害罪の成否】
*肯定説
胎児に対する傷害を認める見解
(理由)
一定段階の「胎児」は人であるという「解釈」が不可能とはいえない
(批判)
胎児を人とする類推解釈であり、罪刑法定主義に反する母体に対する傷害を認める見解
・その1 母体一部傷害説(判例)
(理由)
胎児は母体の一部であり、かかる胎児を侵害するのであるから、胎児性傷害は母体に対する傷害になる
(批判)
①胎児が母親の体の一部であるとすれば、自己堕胎は自傷行為として不可罰となるはずである。しかし刑法は、自己堕胎罪を処罰する規定(212)を置いている。②判例は錯誤論に関する法定的符合説的な考え方をとっているものと評することができるが、錯誤論が適用できるのは、実行行為の時に他の客体が人として存在することを要することは明らかであり、解釈論として無理がある。
・その2 母体機能傷害説
(理由)
傷害は広く生理機能の障害と据えられている
(批判)
母親の生理機能の一部が侵害され...