現在、国会を中心として各方面で年金改革の議論がなされている。しかし前述の通り、年金の正確な理解がなされた上での議論は少ないのが現状である。まずは、現在行われている年金改革議論の要旨をあげてみたいと思う。
まず「世代間扶養」と「世代間公平性」の問題がある。これはたとえば民主党の年金改革案の中に謳われているように、現行の年金制度で進んだならば、現在の世代と未来の世代の間に給付と負担における不公平が生じるというものだ。その理由として、年金制度に対する不信感が国民に広がり、保険料を納付するものが激減しており、また出生率の著しい低下から、このままでは将来国民の保険料負担は増加し、年金制度自体が崩壊してしまう、というものであった。
年金改革議論の重要な点は、年金があまりにも国民生活の根本的な位置にあるのにもかかわらず、その中身は複雑で難渋であるがために、一般国民どころか有識者の中にもその議論を履き違えてしまっているという点である。奇しくも年金議論は前述の通り、その正しい理解が進まない限り、ただむやみに国民に負担と不安を与えかねないものになっている。そこにさらにその負担と不安をあたかもなくすかに見える政策を持ち出し、不完全性を孕む国民世論に便乗してしまうようなことが起こりかねない。年金問題は、有識者はもちろんのこと一般国民がもっと意識をして考えていかなくてはならない問題であり、日本という国がより社会保障の充実した、暮らしやすい国となれるか、それが問われているのではないか。そんな風に思えてならない。
社会保障論
「日本における昨今の年金改革議論について」
Ⅰ.日本の年金制度について
昨年の総選挙以来、年金制度に関する議論が沸き起こり、世論の関心も日に日に増してきている。しかし年金体系とその全体像を理解するには多くの困難がつきまとい、有識者の中でも間違った理解の元で議論がなされ、そこから発信される年金に対する不安が国民世論に伝播し、年金の信頼が大きく揺らいでしまっているのが現状である。そこで、ここでは年金を正しく理解し、現在の議論の問題点や、日本の年金制度の実情は本当に不安材料の多いものなのかを検証する。
まず日本の年金体系についてまとめたい。年金には以下の三つの大きな柱がある。まず、日本の年金は国民全員がその職業の有無や種類にかかわらず年金制度に組み込まれるという国民皆年金の理念を持つ。1961年に旧国民年金制度が確立した当時、国民皆年金が成立したが、全国民すべてを一括対象とした制度はなかったために、産業構造の変化などによって財政基盤の脆さが露呈し、その結果、加入している制度によって負担の不公平...