1 本件では、Xに業務上過失致死罪(211 条)が成立するのかどうか問題となる。この点、Xは甲に対する死傷の予見可能性は存在している。しかし、Xは乙についてはその存在すら知らなかったのであり、乙の死の結果は予見していなかったといえる。このような場合、乙の死の結果について過失責任を基礎づける結果回避義務違反があるといえるか。
2(1)まず、結果回避義務の前提として、どの程度の予見可能性が必要とされるのか、予見可能性の程度が問題となる。
(2)この点、何事かは特定できないが、ある種の危険が絶無であるとして無視するわけにはいかないという程度の危惧感であれば足りるとする説がある(危惧感説)。
しかし、このような危惧感は、現代社会の諸活動には必然的に伴うものであるといえるにもかかわらず、過失責任を問うということは責任主義に反する。
(3)思うに、予見可能性は結果回避義務の前提となるものであるから、何が起こるかわからないといった単なる危惧感では足りない。
そこで、一般人を結果回避へと動機づける程度の具体的予見可能性が必要であると解する(具体的予見可能性説)。
刑法課題レポート 10
1.問題
配達員Xは、トラックを運転して制限速度 30 キロメートルの道路を時速約 65 キロメートルで
走行中、進路前方に突然 7 歳ぐらいの子供が歩いているのを発見したので、急にハンドルを左
に切ったところ、トラックは道路の左側にあった電柱に激突し、その衝撃によって助手席に同
乗していた甲に重傷を負わせ、また後部の荷台に乗っていた乙を道路上に転落させ、死亡させ
た。Xは乙が荷台に乗っていたことを知らなかった。この場合の Xの罪責を論ぜよ。
2.回答
1 本件では、Xに業務上過失致死罪(211 条)が成立するのかどうか問題となる。この点、Xは甲に
対する死傷の...