私が日本語教育に役立つと考えたのは、ケース11「人称代名詞」から、古代の敬語表現法が人称代名詞の省略に影響しているということと、ケース12「コソアド」から、指示語の意味体系は複数あるということである。
ケース11の「人称代名詞」をまとめると以下のとおりである。現代日本語の人称代名詞の特徴は三点ある。まず、言語表現の骨格として必須ではないということが挙げられる。現代日本語の人称代名詞は英語と比較して文への出現が少ないが、古代日本語では現代よりもさらに出現が少なくなっている。かつて日本語は動詞を中心とする述語部分の敬語表現が現代より発達しており、述語表現の使い分けで行為の主体・対象者がわかったので、あえて人称代名詞を使用する必要がなかったのである。次に人称代名詞にあたる語彙が非常に多いということが挙げられる。これは人称代名詞が位相語であり、文末述語の敬語表現と連動して使い分けられているためである。
このことからも、現代は人称代名詞の使い分けで、古代は述語表現の使い分けで敬意を表していたことがわかり、人称代名詞の運用の原理が異なっていたのがわかる。最後に人称代名詞には、もともとの意味とかけ...