小学校における歌唱指導について

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       「小学校における歌唱指導について」
     小学校音楽科において主となる内容には、「表現」及び「鑑賞」の2項目がある。音楽科の学習はこの2項目を中心として展開されているものであり、「歌唱活動」はこの内の「表現」において重要となる学習活動である本稿では、小学校音楽科における歌唱活動及び指導について、以下のように述べる。
    人間は「〇〇くん、あっそぼうよ」などといった、自己の持つ心の声を言葉にし、さらに言葉の抑揚に音程やリズムを加えたものをまるで歌っているかのように発することが多々ある。つまり、歌うことは相手に対し自分の心を伝える為に有効な手段であり、またそのために生み出されたのである。
    また、歌唱は人間が持つ原始的な活動であり、音楽活動の基盤ともいえる。歌唱で用いられるのは、自己の体のみであり、その体を楽器として演奏するのである。つまり、歌唱とは器楽の根本的存在ともいえるのである。 歌唱活動で重要となるのは、集団生活内において相手を思いやる気持ちや、自己の感じた多様な感情をそのまま表現することにある。「初等科音楽教育法」において、学校での歌唱の役割は、次のように述べられている。・歌うことから他人を思いやることができる。
    ・歌唱は楽器等の準備がなくても、また場所を選ばずにできる。
    ・一人から大勢まで、いろいろな楽しみ方が可能である。
    ・あらゆる実践の場において、歌唱は感動を演出し、節目で取り入れられる斉唱及び合唱は学校生活のリズムを作り出すことに役立つものである。
     「読譜への指導」
     歌唱に必要となるのが「読譜能力」である。歌唱活動を行ううえで重視しなければならないのが楽譜を読むことであり、これは小学校における歌唱活動のみならず中学校・高等学校においても必要とされる能力となる。ここでは、その「読譜能力」の育成について述べる。
     読譜能力は音楽活動を行う際に重要となる能力であり、児童の基礎能力を伸長するための練習ではなくあくまでもリズムの取り方や高学年で活動が展開される器楽においての必要事項となるもの、として認識されなければならない。ここでの指導については、次のように述べる。
     低学年においては、楽譜を読み取ることが困難であるため、教科書にも文字によって歌詞のみを記載しているものが多く見られる。そのため、音程や声の大小などは教師がピアノで伴奏し先に歌って見せることで指導する必要がある。
     中学年では、文字の読み取りや音程の取り方などもある程度知識として理解されるため、簡単な譜面が教科書に記載されている。ただし、低学年と同様に音程のとり方などよりも自己の表現意欲が選出される場合が多いため、楽譜に沿った音程のとり方や楽譜の読み方、音楽記号の持つ意味などを説く必要となる。
     高学年においては、それまでに培った能力をさらに伸張し今後の活動へとつなげるために、斉唱や合唱を実施することが求められる。また、楽譜を読みそこから自分の担当する歌唱パートの音域を確認し、練習へと生かすことが必要となる。そのため、楽譜上に記載される音楽記号や音程を読み取ると同時に、自分の担当パートの歌唱開始及び歌唱終了がどこからどこまでなのかを把握するためにも「読譜能力」を育成することが重視される。
     これらをふまえ、下記の歌唱における具体的指導を実施するべきとなる。
     「発声面における指導」
    小学校学習指導要領では、「A表現」の「(3)歌い方や楽器の演奏を身に付けるようにする」の「事項(ア)」において、歌唱の表現技能について学年段階ごとに次のように示されている。
    ・第1学年及び第2学年 「自分の歌声及び発音に気を付けて歌うこと」
    ・第3学年及び第4学年 「呼吸及び発音の仕方に気を付けて、自然で無理のない声で歌うこと」
    ・第5学年及び第6学年 「呼吸及び発音の仕方を工夫して、豊かな響きのある、自然で無理のない声で歌うこと」
    まず、低学年においては児童が心待ちにしていることを認識し、楽しみながら音楽活動を行うことの出来る環境を整えるとともに、自己表現意欲が高いことを原因とする声の張り上げを抑え、「丁寧に歌うこと」「友達の声に関心を払うこと」を重視し、協調性及び正しい発音への気付きを指導上の要点とすべきである。
    次に中学年においては、旋律の流れや正しい言葉の発音に対応した抑揚を大切にし、児童の自己表現意欲を損なうことの無いよう、呼吸法に気を配る必要がある。
    最後に高学年では、音の重なりや和音の響きを感じるための活動を実践に取り入れ、表現を支える発音及び呼吸法に気を配るとともに、日本の音楽のみならず身体表現を伴う外国音楽なども活動に組み込むべきである。
    「歌唱を苦手とする児童への指導」
    歌唱は児童本人の身体面及び精神面に密接に関わるものであり、小学校における音楽教育では「変声期の児童への指導」「音痴の児童への指導」が求められる。この2点については次のように述べる。
    変声期の児童への歌唱指導においては、時代の流れとともに小学校、特に高学年において考慮されるべき項目となった。この時期の児童は、男子では声の高さが約1オクターブ低くなり、心身ともに著しい変化が見られるようになる。そのため、変声期を意識した指導が必要とされる。
    変声期における指導としては、下記の要点を重視すべきである。・男子の場合、変声期が進むにつれ音域も低くなるため、歌いやすい音域での歌唱が必要となる。
    ・変声期が人間の成長の中で自然な流れであることを児童に理解させ、個々の児童の成長に即した対応及び指導を行う。
    上記のほかにも、変声期前後における児童の心身の成長に伴った適切な指導が重要となる。
    音痴の児童への指導に対しては、心身の成長の中で音域から外れた声を出してしまう児童も珍しくない。しかし、そこでその児童の心を傷つけることをせず、児童の持つ感受性や歌唱への意欲を尊重した指導が求められる。
    その際教師がすべき指導とは、まず児童が安心して歌唱活動を行うことの出来る存在になることがあげられる。ただ単に指導者としての立場を保つのではなく、個々の人間同士として信頼関係を築き上げることが重要となる。
    また、曲の音程と児童の音域が合っているかを確認し、合っていなかった場合にはその児童にあった音程における指導をすべきである。変声期後の児童であれば、変声期以前より1オクターブ高く、もしくは低くした音程で歌わせることも必要である。
    以上のように、小学校における児童の発達は、身体面及び精神面において目覚ましい成長を見せる。その発達の中で、歌唱は児童の内面的な成長において重要な役割を担うものである。また各学年及び発達段階に見合う指導が必要とされる。さらに、児童が音楽における自分なりの楽しみ方を見つけ出すとともにその楽しみを生涯にわたり保有及び伸長できるよう、教師は指導や支援を行うべきとなる。つまり音楽活動における歌唱指導とは、児童がその人生の中で保有する「楽しめるもの」を引き出すための重要な要素なのである。                           R2F 大岡曜一郎

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