私は、『プラトン 哲学者とは何か』を読んでプラトンが極めて現実主義であることにまず驚いた。そして、現実をしっかりと見据えた上で高い理想を掲げていたことを知って深く感動した。
まず現実主義的側面は、『対話編』での舞台が、ソクラテスの生きた時代であるということに見ることができる。それは、一見懐古趣味のように感じられるかもしれないが、ソクラテスの「現在」を描くことによって、ソクラテスの言葉や、生のあり方そのものを浮き彫りにするためだったのであるということが課題図書の第一部に書かれている。
プラトンは、自らの著書の中で対話を文字として書き表すことで、対話の中で語られた言葉が、本来の意味とは違う文脈で使われたり、その意味を解すのにふさわしくない人にまで読まれ、あらぬ誤解を招いたりすると指摘している。しかしながら、プラトンは敢えてソクラテスの思想というものを論文のような形でまとめずに、ソクラテスをソクラテスの生きた時代に閉じ込め、ソクラテスからある特定の人物へ向けた対話という形でソクラテスの言葉を記すことによって、言葉が誤った解釈をされることを極力防ごうとしていたように私には思える。さら...