判旨に疑問を感じる。
Yの主張は、所得税法157条の適用を肯定するには、その条文上、納税居住者(原告)の不動産所得税の負担を不当に減少させる結果となることだけで十分である。としており、判決もその判断をしているが、所得税法一五七条は、「個々の所得類型に分けて所得金額や収入金額を論じているのではなく、全体としての所得税の負担の不当な減少を要件としている」。(佐藤・後掲)だとすれば、本件において適正不動産所得を計算すると同時に給与所得を減額又は無償とするなどを、あわせて行うべきであると考える。
そして、この問題には、類似の事件があり、東京高裁判平成10・6・23税務訴訟資料232号755頁が本判決よりも新しい事案として参考にすることができるだろう。この判決で裁判所は、所得税法一五七条の「行為・計算の否認は、実質的に公平な課税を行うために所得を適正に把握しようとする制度であり、かつ、現実になされた相互に関連し一応整合性を有する一連の行為・計算を否認して、別の行為・計算に引き直すものであるから、現実になされた行為・計算の一部のみを取り上げて否認するのは必ずしも妥当ではなく、これと必然的に関連する他の部分をも否認して計算をし直すことが妥当な場合が多いと考えられる。」「したがって、行為・計算を否認することにより、全体として所得の正確かつ実質的把握に資するようにすべきであって、一部の行為・計算のみの否認が全体として正確かつ実質的把握を損なう場合には、問題があるとしなければならない。」としている。そうであればやはり、本件においてXの役員給与に係る税額は減額構成されるべきであろう。
所得税の同族会社の行為計算の否認
最高裁平成6年6月21日第三小法廷判決
(平成5年(行ツ)第74号所得税更正処分取消請求上告事件)
(訟月41巻6号1539頁)
X…原告・控訴人・上告人
Y…税務署長―被告・被控訴人・被上告人
事実の概要
Xは、土地、建物、駐車場(以下「本件物件」)を所有している。有限会社A社は、X及びXの妻Bの出資により設立された法人税法2条10号に規定する同族会社である。XとBはA社から役員報酬(注1)を受け取っている。(昭和61年分については、X570万・B450万)
XとA社は、Xが本件物件をA社に、「①賃料は月額200万円とする。②Xは、A社が第三者に使用目的…の範囲内で賃貸することを認める。③A社の責任で管理その他一切を行う」の条件で賃貸する契約(以下「本件賃貸借契約」)を締結した。
本件賃貸借契約に基づき、XはA社から係争各年分(昭和59・60・61年分)において、それぞれ年額2400万円の賃貸料(以下「本件賃貸料」)を受け取った。A社は、本件賃貸借契約に基づいて本件物件を第三者に転貸することにより、転貸料収入(以下「本件転貸料」)...
失礼しました。