1.目的
実験による流体抵抗の測定方法を理解し、さらに実際の測定を通して物体まわりの流れと抵抗が発生する理由を理解する。
2.理論
2.1.抵抗係数
流体力は粘性応力によるものと圧力によるものに分解できる。流体抵抗に関して、粘性応力による摩擦抵抗、また圧力による圧力抵抗、あるいは形状抵抗と呼ばれる。つまり、次式のように表すことが出来る。
流体抵抗=摩擦抵抗+圧力抵抗・・・・(1)
ある程度レイノルズ数が高ければ、円柱のような鈍い形状の物体に作用する流体抵抗の場合、一般的に圧力抵抗が支配的で、摩擦抵抗は無視できる。
流体抵抗の大きさは無次元化して抵抗係数Cとして表すことが出来る。抵抗係数の定義を次に示す。
・・・(2)
ここで、ρは流体の密度、Uは一様流の流速、Sは一般に対象とする物体を流れ方向にと投影場合の投影面積である。揚力Lにおいても同様に次式の揚力係数Cで表す。
・・・(3)
2.2.流体抵抗が生じる理由
流れの中に物体をおくと、その物体には必ず流体抵抗が作用することは経験的に分かっていることであるが、ではなぜ流体抵抗が発生するのかその理由について、実在しない非粘性流体から考えてみる。
・非粘性流体の場合
非粘性流とは粘性の無い仮想的な流体である。その非粘性流体の中に例として円柱を置いた場合の流れについて考えてみる。図1は円柱周りの非粘性の流線である。図から左右つまり円柱の上流側と下流側で対称な流れとなっていることが分かる。流線に挟まれた部分は流管であり、その中の流量は一定であるから、流線と流線の間が広いところでは流速が遅く、狭いところでは流速が速くなっている。すると、ベルヌーイの定理から円柱表面では点A、Cで圧力が高く、点Bでは圧力が低くなっていることが分かる。同じような考えで、円柱表面全体の圧力分布を計算すると図2のようになる。流れが左右対称であることから、圧力分布も左右対称になる。
この円柱に作用する流体抵抗を求めると、非粘性流であるから摩擦抵抗は0となり、また、上流側、下流側で対象な圧力分布であることから圧力抵抗も0となることが分かる。
円柱に限らず、一般に非粘性流中に置かれた物体に作用する流体抵抗は0となり、実際の現象とは異なった結果が導かれる。これをダランベールのパラドックスと呼ぶ。
・粘性流体の場合
では、実際の流体、すなわち粘性流体では流体抵抗がどのようになるのだろうか?粘性流体では粘性の影響により下流に行くにつれ、摩擦損失によって流れのエネルギが減少し、図3に示すように逆流が生じて流れは物体表面から剥がれて流れるようになる。 これを流れの剥離という。流れが剥離した領域では圧力が低くなるため、図4のように物体まわりの流れで剥離が生じると物体背後で圧力が下がり、大きな圧力抵抗が生じる原因となる。逆に、抵抗を小さくするには流れの剥離を防ぐこと、剥離領域を小さくすることが重要になる。
3.実験方法
3.1.天秤による抵抗測定
天秤に酔うる抵抗測定法はもっとも単純な理論に基づく測定方法で、図5に示すように試験体を天秤によって支持し、試験体に作用する抵抗とつりあう重力を分銅によって測定することにより抵抗を測定する方法である。ただし、本試験では所定質量の分銅をあらかじめ秤量皿に乗せておき、その重さにつりあう風速を見いだすという方法をとる。風速はチャンバと測定部と圧力差をマノメータで測定することによって求めることができた。
また、比較するために、同じ風速で翼型(NACA0020)試験体に作用する流体抵抗を測定し、円柱の抵抗係数を比較した。
3.2.表面圧力計測による抵抗測定
先述ように流れ場のレイノルズ数が高く、かつ、物体まわりの流れが剥離しているような状況では摩擦抵抗が無視できる。したがって、このような場合、抵抗を求めるには圧力を測定すれば、その物体に作用する抵抗を知ることができる。
本実験では図6のようにして表面圧力を測定する。表面圧力測定用の試験体円柱の表面には圧力を測定するための孔が設けられており、これをビニールチューブでマノメータと接続することによりその位置での圧力を知ることができた。表面全体の圧力を求めるには、全面に圧力測定孔を設ける必要があるが、円柱の場合には一つだけ設けられた圧力孔を360度回転させることによって全周の圧力分布を求めることができた。円柱の軸方向には変化がないとすると、作用する抵抗は次式で求めることができる。
・・・(4)
ただし、ここでdSは流れ方向の微小面積を表す。実際には表面圧力の計測は離散点上のデータとなるため、例えば次式のように近似し、シンプソン則や台形公式により数値的に積分を行った。
・・・(5)
4.実験装置
・風洞実験装置 TQ AIR RLOW BENCH AF 10
パソコン
5.実験結果
天秤による円柱および翼型形状の抵抗測定、抵抗係数計算結果は表2に、表面圧力測定による円柱の抵抗測定および、抵抗係数計算結果は表3、表4、表5、図7に示した。また、表1には測定条件、物性値を示した。
天秤による抵抗測定による円柱の抵抗係数CDは
天秤による抵抗測定による翼型形状の抵抗係数CDは
表面圧力測定による円柱の抵抗係数CDは、
6.考察
6.1.天秤による抵抗測定の考察
実験で求めたレイノルズ数はRe=1.9789E+04、さらにこの円柱周りの臨界レイノルズ数(Critical ReynoldsNumber)は図8抵抗係数とレイノルズ数の関係の図より、 あたりで抵抗係数が小さくなっていることが見受けられる。その原因としては、いったん剥離した層流が再び円柱に付着するためではないかと考えられる、さらに再付着した部分が乱流として発達し、乱流境界層になる。つまり、 で乱流境界層になるのでここでのレイノルズ数を臨界レイノルズ数と考えるとこの実験での円柱周りの流れは層流状態といえる。そして臨界レイノルズ数を越えると境界層の剥離位置は層流のときよりも後方になる、つまり円柱の後方になり、よって抵抗が小さくなることが考えられる。
円柱の抵抗係数は翼型の抵抗係数よりも大きくなった。円柱の抵抗係数は ,翼型の抵抗係数は となり、円柱のほうが抵抗係数が大きくなった。考えられる原因としては、円柱の場合と翼型の場合だと剥離する位置が異なるため、抵抗係数に差があったと考えられる。つまり、剥離位置が後方にあるほど抵抗が少なくなると考えることができる。つぎに、レイノルズ数400の時の解析結果を示す。図9、10でもわかるように剥離位置が互いに異なるっていることが見受けられる。
図8、抵抗係数とレイノルズ数の関係
図9、円柱周りの流体解析結果(速度ベクトル表示)
図10、翼型周りの流体解析結果(速度ベクトル表示)
6.2.表面圧力測定による抵抗測定の考察
表面圧力測定では、粘性流つまり空気を用いて実験を行ったため、非粘性流のように上流、下流で対称な圧力分布にならなかった。(図7参照)円柱表面で剥離が発生したために上流、下流で対称な圧力分布にならず非対称な分布になったと考えられる。さらに淀み点(θ=0°)の点では動圧に近い値 となった。動圧とは淀み点におけるゲージ圧である、さらに圧力係数 の定義より なので、理論的には淀み点での圧力係数 は になることが理想といえる。また、表面圧力測定に実験で円柱表面に剥離が起こっていると述べたように、その位置を図7から推測してみる。図7をみると約80°の位置でグラフが直線になっていることが見受けられる。つまり、その位置で剥離が発生していることがわかる。
数値シミュレーションで得た結果(図11)と実際の実験で得た結果(図7)を比較するとシミュレーション結果では円柱周りの流れは流れに対して垂直な方向に非対称になっている。しかし、実際の実験結果では非対称性が見られない。それは、カルマン渦が影響していると考えられる。実際の実験でもカルマン渦の影響はあるはずだが、今回の実験では、円柱表面からチューブを介してマノメータに接続するため、チューブが伸び縮みをし、その振動を吸収してしまった可能性がある。さらにゲージ圧を測定する際に20~30秒待ち、圧力が安定するのを待ってから測定したため、非対称性が見られなかったのではないかと考えられる。
図11、レイノルズ数400、円柱のシミュレーション結果
表面圧力測定で求めた円柱の抵抗係数は 、天秤による測定で求めた円柱の抵抗係数は となり、その差は0.22であった。なぜそのようなずれが生じてしまったのか考えてみる。表面圧力測定では、主にチューブを介してマノメータに接続し圧力を測定したのに対して、天秤による測定ではバランスアームで円柱との釣り合いを取ってから、分銅を足していき円柱が受けている圧力を計測する方法であった。差が生じてしまった可能性としては、バランスアームで円柱との釣り合いを取る作業があまり正確にできていないために抵抗係数に差が生じてしまったと考えられる。そもそも、人間の感覚で釣り合いをとる行為そのものに正確性があるのかを実験前に考察するべきだったのではないか。
図8に示す抵抗係数とレイノルズ数の関係グラフと実験で得られた抵抗係数を比較してみる。今回実験より得られたレイノルズ数は 約 である。図8よりレイノルズ数 の位置を見てみると、円柱の代表長さ5[cm]の場合は約0.8円柱の代表長さが無限のときは約1.20と読むことができる。実験で測定した円柱の抵抗係数は、表面圧力測定時では1.036、天秤による測定では1.058と図8から読んだ値よりも...