『自由と経済開発』を読んで
現在、世界は前例のないほど豊かになっている。しかし私たちは同時に、驚くべき欠乏、貧窮、そして抑圧の中を生きている。それは貧しい国だけの問題でなく、豊かな国でも見られることだ。本書は、こうした問題を克服するため、自由が果たす役割の重要性を説いている。
最初に確認したいのが、GNPや個人所得の増加といった、開発の限られた指標は、問題解決のための直接的な目標ではないことだ。開発の真の目的は、「人が自らの価値を認める生き方をすることが出来る自由」、すなわち、「潜在能力」へのアプローチである。つまり、開発は自由を拡大する一つの重要な要因に過ぎず、あくまで個人的な自由を社会的目標とすることが、上記の問題解決につながるのだ。
具体的な実例から、この観点の重要さを紐解いていこう。まず、アフリカ系アメリカ人が、もっと貧しい中国人などと比べて死亡率が高いことから、死亡率に影響を及ぼしているのは所得の不平等ではなく、個人の利益や自由での不平等だということがわかる。すなわち、医療や保険といった公的政策問題だ。また、女性の性差別による乳児の高死亡率や、飢饉や疫病に対する保護...