『EU統合はそこに暮らす人々、ひいては世界の人々の幸福にどのような貢献を果たすと考えられるか。またそれがもつジレンマとは何か。もっとも基本的な目的と具体的な発現状況を要約して述べよ。』
ヨーロッパでは国境が消えようとしている。国境の廃止は単なる交通の自由をもたらすだけでなく、国家、民族、文化などにも影響を及ぼし、ヨーロッパ主義、多元主義、多文化主義といった新しい用語を呼び出している。このヨーロッパ統合の問題を文化・民族問題を中心に述べたい。そのため、現状分析と長いタイム・スパンでの考察が必要であろう。まず、歴史的概観から考察する。
ヨーロッパが分裂と統合を繰り返す不定形の歴史的過程であることを明確に描き出したのは、ポーランド出身の歴史学者クシシトフ・ポミアンである。この書物の邦訳は『ヨーロッパとは何か』である。このヨーロッパの歴史は国境の歴史に他ならない。紛争の歴史である。
【ヨーロッパ統合の歴史的経緯】
古来よりヨーロッパでは戦火が絶えなかった。ヨーロッパでの平和論は、30年戦争が勃発していた16世紀ごろからすでにみられる。その後国際舞台で平和の実現のために統合の必要性が認識さ...