民法判例百選Ⅰ総則・物権(第五版)
30 民法761条と表見代理
最高裁昭和44年12月18日第1小法廷
①事実の概要
本件の土地は、Xが夫Aとの婚姻前に自己の働きによって昭和24年3月頃に他人から買い受けたものであり、また本件建物はXが同年6月頃建築したものであって、そのいずれもX名義で登記をして所有してきたものであり、Xの特有財産であった。
ところが、昭和37年に夫Aの経営する株式会社N商店が倒産したため、N商店に対し特に多額の債権を有していたT会社の経営者Yは、債権回収を目的として、昭和37年4月2日、AY間で本件土地建物の売買契約が締結され、同年4月12日付けでYに所有権移転登記がなされた。(代金はN商店の清算終了の際にT会社が有する残債権の譲渡をもってあてるとされたようである。)
1964年XはAと離婚。Yに本件土地建物を売り渡したことはなく、上記登記の申請手続をしたこともなく、売買契約は全くXの関知しないもので無効であるとして、Yに対し上記登記の抹消登記手続きを請求して本訴に及んだ。
これに対してYは本件売買について、次のように争っている。Xは自らAに自己の印鑑及び印...