井原西鶴から始まった浮世草子の一つである『好色五人女』は、事実に基づいた五組の男女の悲劇的な恋愛を主に題材とした小説集である。五巻五冊で構成されており、西鶴の自由な構想と趣向によって当時の俗謡や芝居を元に事件を展開させている。当時の封建的な男尊女卑の社会の中で、西鶴は女性たちの口を借りて実状への批判・不満を訴えていた。
巻一 「姿姫路清十郎物語」
但馬屋の娘のお夏と清十郎が姫路にて心中したという寛文初年の実話と伝えられている。
清十郎は他の事件も関与して処刑され、お夏は長く生きたが出家して見る影もなく落ちぶれたという。この内容は近松門左衛門が作品化し、近代になってからは坪内逍遥が舞踊劇で取り扱っている。
いつの時代も事件に対する素朴な民衆の声は、流行歌や語り物の類で伝えられてきた。このお夏清十郎の事件も同様に歌謡で伝えられ、習俗や掟に背いて自らの意志のままに行動した二人に対する民衆の共感と同情を感じ取ることができる。
巻二 樽屋おせん事件
貞亭二年の大阪天満で起こった、樽屋の女房おせんと長左衛門との姦通事件である。近世の法律で、夫が妻の不倫現場を発見した場合は妻と不倫相手を...