性犯罪捜査の問題点と推進すべき捜査について(警察の立場から)
1 性犯罪捜査の問題点
強制わいせつ事件等、性犯罪捜査の問題点として、
重大・悪質な犯罪に発展するおそれがある
この種の事件は、連続性・反復性が高く、その犯行形態がじょじょに
エスカレートし、時には殺人や致死事件等より重大・悪質な犯罪に発展
するおそれがある。
被害者の精神的苦痛が強い
被害者は、精神的にも肉体的にも著しい苦痛を強いられ、羞恥心等から
警察への被害申告が遅れ、又は被害申告そのものをためらう傾向がある。
犯人に結びつく証拠資料が少ない。
夜間などは、被害者のほかに目撃者がいない場合が多く、現場における
物証も得にくいなど、犯人に結びつく証拠資料が少ない。
等の問題点があり、これらを十分に踏まえた捜査活動を展開し、被疑者を早期に
検挙する必要がある。
2 推進すべき捜査事項
初動捜査活動
ア 迅速な立ち上がりによる早期現場臨場
事件を認知した場合は、直ちに現場臨場するが、可能な限り私服捜査員が
捜査用車両で臨場する。
イ 広範囲な現場保存の実施
現場の状況を勘案し、できる限り広い範囲の現場保存を実施し、証拠資料の
散逸・減失・破壊を防止する。
ウ 現場観察・鑑識活動の徹底
現場観察・鑑識活動を徹底し、証拠資料の発見・収集に努めるとともに、
似顔絵の作成や警察犬の活用にも配意する。
エ 聞込み及び検索活動の徹底
現場付近における聞込み、検索活動を徹底し、目撃者の確保、関連情報の
収集、遺留品の発見に努めるとともに、不審者に対する職務質問などにより、
被疑者を発見して検挙する。
オ 報告及び各種手配の励行
事件概要の他、犯人の人相・着衣・使用車両について、逐次、本署又は
通信指令室に速報し、組織的な被疑者の発見・検挙に努める。
事後捜査活動
ア 手口捜査
犯行手口や各種捜査資料を多角的に分析・検討し、性犯罪手口前歴者の中から、
同一又は類似手口を有する容疑適格者を浮上させる。
イ レンタルビデオ店等に対する捜査
性的変質者等が出入りする可能性のあるレンタルビデオ店・アダルトショップ、
テレクラ等に対する捜査を実施し、捜査対象者を浮上させる。
ウ 定時通行者・防犯カメラ等の捜査
犯行時間帯の定時通行者に対する聞込みを実施するとともに、コンビニエンス
ストア等に設置された防犯カメラ映像の解析を行う。
エ 的割り捜査
性犯罪前歴者、性的変質者等の容疑適格者の中から対象者を抽出・選定し、
的割り捜査を実施する。
オ よう撃捜査
同種事件の発生時間帯、地域などを分析し、犯行予測に基づいたよう撃捜査
を実施し、現行犯的に被疑者を検挙する。
カ 新たな捜査手法の活用
強制わいせつ等の性犯罪捜査に当たっては、プロファイリング等の新しい
捜査手法の積極的活用にも配慮する。
3 捜査上の留意事項
適切な被害者対策の実施
ア 被害者の心情への配意
性犯罪指定捜査員等の女性警察官の適切な運用、性犯罪証拠採取セットの活用
等、被害者の心情に十分配意した捜査を推進する。
イ 医師の診察
被害者の負傷の有無など、医師による診察の必要性を最優先に確認し、早期に
診察を受けさせるとともに、捜査に対する医師の協力を確保する。
ウ 捜査の必要性に関する十分な説明
被疑者を検挙するためには、被害者の協力が不可欠であることを説明し、理解を
得るとともに、司法手続の流れについても説明しておく必要がある。
適切な疑律判断
被害者は、羞恥心等から、被害申告を過小に申告することがあるため、先入観を
排除した事情聴取と慎重な裏付け捜査を行い、事件性について適切な疑律判断を
行う。
保秘の徹底
聞込み・検索に当たっては、窃盗事件等の他事件に偽変するなどし、性犯罪被害で
あることや被害者が特定されることの無いよう十分留意する。
性犯罪捜査は、被害者対策の成否が、捜査の成否を決定することを理解しておくべきである。