選挙運動の意義および選挙運動取締り
1 選挙運動の意義
「選挙運動」について判例は、「一定の議員選挙につき、一定の議員候補者を当選
せしむべく投票を得若しくは得しむるにつき、直接または間接に必要かつ有利なる周旋勧誘若しくは誘導その他諸般の行為を為すことを汎称するもの」(大判昭3.1.24)とし、
最高裁判所もこの見解を維持している(最決昭38.10.22)。この判例によって「選挙運動」
を定義すれば、特定の選挙について、特定の候補者の当選を目的として(比例代表選挙の場合は、特定の政党などに所属する候補者の当選を目的として当該政党に対する)、
投票を得又は得させるために直接又は間接に必要かつ有利な行為」ということになる。この定義に従って「選挙運動」の概念の構成要素を考えると、次のとおりである。
選挙の特定
ある行為が「選挙運動」とされるためには、その対象たる選挙が特定されている
ものでなくてはならない。公示又は告示がなされ、選挙の期日が確定した場合は
もちろんのこと、公示又は告示前で選挙期日が確定していなくても、社会通念上
それが何の選挙で、いつごろ施行されるかが一般に認識し得る程度であれば、
特定の選挙であるといい得る。
候補者の特定
選挙運動とされるためには、その当選を図ろうとする特定の候補者が存在しなけ
ればならない。ここに言う「候補者」とは、法廷の手続を終えて立候補した者のみを
いうのではなく、広く将来立候補しようとする者も含む。また、特定の候補者といっても、特定の一人である必要は無く、候補者が複数の場合も特定の候補と考えるべきである。
投票を得るための行為
選挙運動とされるためには、候補者が自ら投票を得ようし、または候補者以外の
者が候補者に投票を得しめようとし、あるいは特定の候補者の当選を容易ならしめる
ために他の候補者に投票を得しめないようにするためなど、その行為が特定の候補者
の当選を図る目的でもって選挙人の投票を獲得しようとするものでなくてはならない。
2 選挙違反取締りの重要性
公正な選挙の実現は民主主義の根幹をなすものであり、警察が違反取り締まりを通じて
選挙の公正を確保することを国民は強く期待しており、不偏不党かつ厳正公平な選挙取締りを行い、公正な選挙の実現に努めなければならない。
3 選挙違反取締りの基本的心構え
選挙の自由の尊重
選挙の公正は、民主政治確率の基本的要件である。適法な選挙運動は、どこま
でも自由に行わなければならないが、自由・公正を害する違法な選挙運動に対しては、法令の根拠に基づいて、徹底的にこれを排除しなければならない。
厳正公正な態度
選挙違反取り締まりは、不偏不党、厳正公平を旨とし、地域、政党又は候補者
によって寛厳の差があってはならない。公選法7条は、「警察官は、選挙の取締りに関する規定を公正に執行しなければならない」旨を規定している。
人権の尊重
選挙運動関係者は、違反取締りに当たる警察官にの言動に絶えず注意を払って
いるものである。警察官の不用意な言動や誤った法令解釈などがあれば、選挙干渉、選挙妨害等の非難を受け、取締りの公正を疑われる結果ともなりかねず、不適切な手法や取り扱いにより、相手の地位や名誉を害さないよう人権尊重に十分配慮しなくてはならない。
秘密の保持
ささいな捜査上の秘密であっても、不用意にこれを漏らすと、事後捜査に重大
な支障を生じる結果となる。従って、取締り上の秘密を厳正に保持し、保秘の徹底
を図る必要がある。