商品の需要は、自動的に完全雇用を達成するように調整されることはない。これは、投資需要の大きさを完全に外生的に与えることで表現できる。この外生的な需要の変化が、どれほど国民所得の変化をもたらすかということを考えると、独立需要と誘発需要の区別が重要なことがわかる。需要全体の中で大きな部分を占める消費需要は、国民所得の大きさにも依存する誘発需要である。これに対し新投資需要は、所得の変動にも依存するが、比較的独立に決定されると考えられる。独立需要の1単位の変化が、どの程度の国民所得の変化をもたらすかを示すのが乗数であり、消費需要をC、新投資需要をI、国民所得をYとすると、消費需要はC=C(Y)、0<c(=ΔC/ΔY)<1と示すことができる。
ここで、cは所得の変化ΔYに対応する消費需要の変化ΔCの比であり、限界消費性向と呼ばれる。このときの商品市場の需給均衡は、Y=C(Y)+Iとなる。これにより、新投資需要の大きさが決まると、国民所得が決まることがわかる。
乗数は、あらゆる経済に普遍的な性質でなく、資本制経済の特性であり、消費需要が国民所得に依存して変化することがポイントである。例を挙げると、不況期に投資需要が収縮するとき、その乗数倍の所得が減となることになる。これは、生産減少が雇用や賃金所得を減らして消費需要を減らすからである。不況期の雇用削減は、個別企業の観点からみると合理的に思えるが、社会的には労働と資本ストックの遊休するという無駄が生じる。もし投資需要の減少に対応して、生産能力をその他の需要の充足に当てるような対策をとることができる経済システムであるとすれば、投資需要が減少しても所得は減少しない。乗数とは、この意味で資本制的性質を反映しているといえる。
ケインズの均衡国民所得の決定及び不完全雇用均衡への対策について述べる。
商品の需要は、自動的に完全雇用を達成するように調整されることはない。これは、投資需要の大きさを完全に外生的に与えることで表現できる。この外生的な需要の変化が、どれほど国民所得の変化をもたらすかということを考えると、独立需要と誘発需要の区別が重要なことがわかる。需要全体の中で大きな部分を占める消費需要は、国民所得の大きさにも依存する誘発需要である。これに対し新投資需要は、所得の変動にも依存するが、比較的独立に決定されると考えられる。独立需要の1単位の変化が、どの程度の国民所得の変化をもたらすかを示すのが乗数であり、消費需要をC、新投資需要をI、国民所得をYとすると、消費需要はC=C(Y)、0<c(=ΔC/ΔY)<1と示すことができる。
ここで、cは所得の変化ΔYに対応する消費需要の変化ΔCの比であり、限界消費性向と呼ばれる。このときの商品市場の需給均衡は、Y=C(Y)+Iとなる。これにより、新投資需要の大きさが決まると、国民所得が決まることがわかる。
乗数は、あらゆる経済に普遍的な性質でなく、資本制経済の特性...