日本近現代文学史1 平成二十年 --
『藤村詩集にみる実世界とのかかわりと詩のモチーフ』
〈はじめに〉
詩人としての島崎藤村は、『若菜集』(明治三〇年八月)の刊行から、『一葉舟』(三一年六月)、『夏草』(同年十二月)を経て『落梅集』(三四年八月)に至るまで、四つの詩集を発表した。これらをまとめた『藤村詩集』(三七年)の「合本詩集初版の序」に、「われは今、青春の記念として、かゝるおもひでの歌ぐさかきあつめ…」とあるように、藤村の詩は、しばしば一つの青春が終わりへと向かう流れをうたっているとされる。
その流れに沿って、彼の詩はだんだんと長くなり、やがては小説へと向かう。
人生は、極端に言えば「生・愛・死」で表すことができ、詩のような短い言葉で人生を説明することもできる。しかし、たとえば人を愛することには大変な労力を要するのに、詩という表現形式をとるとそういった部分を省いていくことになる。彼は「労働雑詠」(『落梅集』)で一日を描くが、それでも足りない。もはや詩で歌っている場合ではない、人間や現実社会は歌い上げるものではない・・・彼は詩を捨て、小説で実世界と関わっていくこととなる。
ここでは...