「EU統合はそこに暮らす人々、ひいては世界の人々の幸福にどのような貢献を果たすと考えられるか。またそれがもつジレンマとは何か。もっとも基本的な目的と具体的な発現状況を要約して述べよ。」
EU統合の根源的な目的として、自由、平和、平等、そして人間の尊厳に重きが置かれている。ヨーロッパ諸国の国境を取り払うことで、社会、政治、経済などの様々な分野に影響が及び、福祉の享受や人々の価値観に大きな変化が生まれる可能性もある。歴史上、数々の紛争とともに分裂と統合を繰り返し、第一次世界大戦、第二次世界大戦と、二度の惨禍の舞台となったヨーロッパが切望するものは、諸国の平和と安定に加え、人々に幸福をもたらす施策を確立することである。
ソビエトとアメリカという二大強国に挟まれたヨーロッパ諸国は、「ヨーロッパ合衆国」なる構想をもとに、ヨーロッパを統合させる方向に向けて動き出した。戦争の原因の一つにもなっていた石炭・鉄鋼などの軍事関連の重要資源を共同で管理することを目標に掲げた欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)の発足は、戦争を幾度となく繰り返し、破滅寸前まで追い込まれたヨーロッパが平和と安定を希求する上で極めて...