スイスの言語状況
―英語の台頭に対する課題―
Written by Koshiro
はじめに
2007年のルーマニア・ブルガリアの加盟によって27ヶ国体制となったEU。それは極めて多数の言語・民族からなる組織であるがゆえに、さまざまな問題を抱えている。しかし、ヨーロッパには同じように多数の言語集団からなる地域でありながら、非常に安定した社会を実現している国がある。それがEU未加盟国スイスである。以下では、多言語国家スイスの現状を明らかにし、課題を探る。
Ⅰ.スイスの言語状況
スイスはヨーロッパで最も安定した国の一つであり、多民族国家という枠組の中で多様な言語・宗教集団を統合することに成功をおさめてきた 。スイス人の母語分布は2007年のスイス連邦統計局のデータによると、ドイツ語63.7%、フランス語20.4%、イタリア語6.4%、ロマンシュ語0.9%、その他9.0%である(下図参照)。また、ドイツ語は大部分がスイス=ドイツ語と言われる方言であり、標準ドイツ語とは文法・語彙がかなり異なる。さらに、その中でもチューリヒ=ドイツ語やベルン=ドイツ語などといったように細分化されるため、特に...