日本の近代文学では、明治維新後封建制度が崩壊した社会を生きる女性が様々に描かれている。
樋口一葉(一八七二~一八九六)の『十三夜』(一八九五)のお関は、身分違いの結婚生活に不満を持ち、実家に戻り離婚の相談をする。しかし元士族である父の古い考えに諭され、一族の安泰を考え自分自身の幸せを押し殺し離婚を諦める。
森鴎外(一八六二~一九二二)の『雁』(一九一一~一九一三)では、高利貸の末造の「妾」になったお玉は、世間から見た自分の弱い立場という事に気付く。しかしやはり家族の犠牲に生き、その状況に耐える女性として描かれている。
泉鏡花(一八七三~一九三九)の『婦系図』(一九〇七)のお蔦も芸者という弱い立場の設定で、その為に恋人の早瀬とは悲恋の関係として描かれている。
いずれも明治時代の作品であるが、江戸文化の名残と近代化の間で生まれ出したひずみに立ち向かうこともせず、男性に対して奴隷的な生き方しかできない女性達が描かれている。
有島武郎(一八七八~一九二三)の『或る女』(一九一一~一九一九)は明治後期から大正にかけて書かれた作品である。この作品に登場する葉子は、それまでの女性像とは随分...