室町時代に大成された能の第一人者は周知のごとく世阿弥(一三六三?~一四四三?)である。この世阿弥の能の大成と特徴について、歴史的視点を絡めて述べてみたい。
平安時代から「猿楽」として親しまれてきた芸能は、鎌倉時代後期になると能と狂言という二つの演劇として発展する。狂言は滑稽を旨とする笑劇であり、その源流がまさに滑稽主体の雑芸であった「猿楽」にあることは想像もたやすい。しかし能も同じ「猿楽」を源流とする。その理由は何処にあるか。
広辞苑によると「猿楽」は「滑稽な物まねや言葉芸が中心」とあるが「広義には呪師・田楽などをも含む」とも記載されている。 田楽にみられる鼓笛の囃子を伴ったあたりなど、能の歌舞的な部分に通ずると考えられる。
天下泰平・五穀豊穣を祈る「翁猿楽」を鎌倉中期には、座という芸能集団が演じていた。その歌舞的要素が劇として整った頃、観阿弥(一三三三~一三八四)がこの翁を演じたことが能へと発展してゆく大きな出来事だと考えられている。
この世阿弥の父である観阿弥は、後に能を大成してゆく世阿弥が受け継ぐまでの能の大きな基礎を築いた。
まず室町幕府三代将軍足利義満(一...