医療をめぐる法律問題について
現代における医療と法の関係を論じる場合、医療における患者の権利の確立に関する諸問題と、医学の急速な進歩により生じてきた問題(たとえばクローン問題や脳死の問題)についてアプローチしていく必要がある。この二つの問題は、医学と法の交錯する領域において生じる問題であり、憲法における人権論、刑法における死の概念、民法における契約法や不法行為法、医療に関連する多くの行政法規や医師の職業規定などと関連している。医療と法をめぐる問題点がこのように学際的な性格を有することから、近時、医学と法学の交錯領域において生じる法律問題を総合的観点から検討するため、「医事法」という独立した専門分野が形成されるにいたっている。医事法の領域は、医学と法学のみならず、倫理学や宗教学にまで及ぶが、以下では主に患者側にとって重要な論点を、医療における患者の権利保障、および先端医療の諸問題と法的対応の両側面から扱う。
(1)医師と患者の権利義務関係
憲法は、すべての国民に健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を保障しており、これを実現するために非常に重要なのが、適切な医療を受ける権利である。わが...