【東京大学】【優】金槐和歌集 (岩波文庫) - 源 実朝 (著), 斎藤 茂吉
『実朝について論じる』 ~原典を読む~ 渡部泰明教官
箱根山をうちでて見れば、波のよる小島あり。供のものにこの浦の名
はしるやとたずねしかば、伊豆の海となむ申すと侍りしを聞きて
箱根路を わがこへくれば伊豆の海や 沖の小島に波のよるみゆ
【通釈】箱根路を越えてやって来ると、伊豆の海が広がり、沖の小島に波の寄せるのが見える。
【補記】恒例の二所詣(伊豆山・箱根権現参詣)の折の作。「沖の小島」は初島であろう。
今回、私は特に傑作が集まっているといわれる雑部の和歌から上の一歌を取り上げて、実朝の実像について論じる。自分の地元が箱根ということがあり、この歌は実朝に対して親近感を持つことができ、自分自身も歌の情景を思い浮かべやすいと思い選択した。この旅先で読んだごく普通の歌において、実朝が何を伝えたかったのであろうか。実朝自身の背景をふまえて、考えてみたい。
実朝は将軍に在任している時にしばしば二所詣でに出かけている。現代の私たちには信じられないことであるが、当時は怨霊の祟りに対する社会的迷妄は極めて一般的であり、国家にとっても怨霊の鎮魂は重大な問題であった。それゆえ律令制度が太政...