武士像の変遷
はじめに
現在多くの人にもたれている「武士像」とはいかなるものであろうか。おそらく「武士道」という言葉が頭に浮かび、ぼんやりとそれに基づいた「武士像」が形成されているのではないだろうか。
君に忠、親に孝、自らを節すること厳しく、下位の者に仁慈を以てし、敵には憐みをかけ、私欲を忌み、公正を尊び、富貴よりも名誉を以て貴しとなす
このような精神を持った者が真の武士である、というような風潮があるように思われる。しかし言説と実像とに差異があることが多々ある。本論文では多くの人が持っているであろう「武士道」に基づいた武士へのイメージが、武士本来の姿と正しく符合しているのか否かを考察していく。その過程において「武士道」とはどのようなものなのか、また、それぞれの時代において武士はどのような存在であったのかを明らかにしていきたい。
武士とはなんだろうか
武士本来の姿を論ずる前に、「武士」とは一体なんであるのか、という点を整理しておきたい。武士身分の確立について上杉和彦氏の論を参考にした。
上杉氏は武士発生の契機として承平・天慶の乱が挙げている。東国を根拠地とした平将門と瀬戸内海を中心にし...