目覚めよと人魚は歌う【薯】星野智幸
言葉の不確実 存在の確実 ――星野智幸『目覚めよと人魚は歌う』――
言葉は人を表すことができない。この小説は言葉そのものを否定するテーマを扱う。それどころか、言葉を介する意思伝達もまた不完全だと指摘する。
このテーマを物語るのは暴行事件を起こし恋人と逃亡することになった日系ペルー人の青年ヒヨヒトである。
ヒヨヒトは恋人との記憶に生きる糖子とその息子そして丸越という男が疑似家族として暮らす非日常的な空間に入り込む。
そこで幾度も過去を反芻するヒヨヒトが試みるのは分裂した自分の接続である。
自分の状態をヒヨヒトはこう分析する。
「いかなる仕組みで間違いの先に間違いが継がれるのかは、どうしてもわからない。自分が起...