1はじめに
現行法の下では、自己の債権の満足を目指す際に通常の弁済を受ける他に、民事執行法上の責任財産の差押及び競売(いわゆる強制執行)による方法、そして優先弁済を受ける方法として物的担保の差押及び競売又は人的担保による満足等が考えられる。
上記のような債権実現方法がある中、民法は423条1項において「債権者は、自己の債権を保全するため、債務者に属する権利を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利は、この限りでない」と規定している。この「自己の債権を保全するため」という文言から、元来は、423条は総債務者のために責任財産を保全しなければならないもの、つまり債務者の責任財産の維持保全を図ろうとしたものと考えられていた。しかし、判例上今日では債権者代位権を用いたとしても事実上の債権回収機能が肯定されている。
いわば、強制執行制度と債権者代位制度の二本立ての状態にあるのである。この原因は民法423条の規定がフランス民法に由来しているといわれている 。この制度がフランス民法においてこの規定が設けられたのは、フランス民事執行制度における債権に対する執行制度の不備にあるからであるといわれているが、我が国の民事執行制度はドイツ法の流れをくんでおり比較的強制執行制度が整っている。したがって、フランス法のように執行制度の不備を補うために債権者代位権制度は必要ではなかったのである。しかしながら、強制執行をなすには債務名義 を必要とするのみでなく、その手続きが煩雑であるため、急速を要する場合には、
債権者代位権と債務者の無資力要件
1 はじめに
2 債権者代位制度
(1)従来の趣旨と本来の運用
(2)現実の運用と転用
3 無資力要件不要説
(1)無資力要件不要説について
(2)無資力要件説に対する学説の対応
4 その後の判例の検討
5 おわりに
1はじめに
現行法の下では、自己の債権の満足を目指す際に通常の弁済を受ける他に、民事執行法上の責任財産の差押及び競売(いわゆる強制執行)による方法、そして優先弁済を受ける方法として物的担保の差押及び競売又は人的担保による満足等が考えられる。
上記のような債権実現方法がある中、民法は423条1項において「債権者は、自己の債権を保全するため、債務者に属する権利を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利は、この限りでない」と規定している。この「自己の債権を保全するため」という文言から、元来は、423条は総債務者のために責任財産を保全しなければならないもの、つまり債務者の責任財産の維持保全を図ろうとしたものと考えられていた。しかし、判例上今日では債権者代位権を用いたとしても事実上の債権回収機能が肯定されている。
いわば...