・安全保障の概念
1:普遍的定義の欠如
安全保障という言葉には、万人に受け入れられる明確な定義が存在せず、その意味はきわめて曖昧である。
なぜこのような事態が起こっているのか。その最も重要な理由としては、?安全保障の定義には、定義を行おうとする者の持つ価値観的な立場や世界観が不可避的に反映すること、および、?安全保障の具体的内容は時代や状況によって異なることの二点を指摘することができる。
安全保障をごく抽象的に定義するならば、一例として、「ある主体が、その主体にとってかけがいのない何らかの価値を、何らかの脅威から、何らかの手段によって、守る」といったものが考えられる。この抽象的な定義に異を唱える向きは少ないだろう。しかし、このような漠然な定義では、分析概念としてはほとんど役に立たない。そこで、次の段階として、この定義の中の「ある主体」、「その主体にとってかけがいのない何らかの価値」、「何らかの脅威」、「何らかの手段」という四つの概念をさらに特定していく必要になる。ところが、これらの概念の具体的内容をどのように認識するかは、その人の持っている価値観や世界観に大きく左右されるのである。
たとえば、国際政治がには世界観を異にするいくつかの学派が並立して論争を繰り広げているが、それぞれの学派はいかに異なった安全保障概念を唱えているかを、ごく単純化した形で概観してみよう。
まず、国際政治学において長く主流の位置を占めてきたリアリズム学派の世界観によれば、国際システムはアナーキーの状況(中央政府を欠いた状態)にあるので、\
安全保障
・安全保障の概念
1:普遍的定義の欠如
安全保障という言葉には、万人に受け入れられる明確な定義が存在せず、その意味はきわめて曖昧である。
なぜこのような事態が起こっているのか。その最も重要な理由としては、①安全保障の定義には、定義を行おうとする者の持つ価値観的な立場や世界観が不可避的に反映すること、および、②安全保障の具体的内容は時代や状況によって異なることの二点を指摘することができる。
安全保障をごく抽象的に定義するならば、一例として、「ある主体が、その主体にとってかけがいのない何らかの価値を、何らかの脅威から、何らかの手段によって、守る」といったものが考えられる。この抽象的な定義に異を唱える向きは少ないだろう。しかし、このような漠然な定義では、分析概念としてはほとんど役に立たない。そこで、次の段階として、この定義の中の「ある主体」、「その主体にとってかけがいのない何らかの価値」、「何らかの脅威」、「何らかの手段」という四つの概念をさらに特定していく必要になる。ところが、これらの概念の具体的内容をどのように認識するかは、その人の持っている価値観や世界観に大きく左右され...