法と道徳との関係を検討していく上で、法と道徳とを同一の次元において把握し、法も道徳も経験的・相対的な社会規範として把握することで、法も道徳も社会生活において我々の行為を規律する客観的な社会規範(理念)である。両者は、相互に依存しあう密接不可分の関係にあるとはいえ、決して同じものではない。法だけの領域、道徳だけの領域、そして法が同時に道徳の問題になる領域が存在する見解がある。過去のアメリカとドイツの2つの立法の経験から法と道徳とは決して無関係ではないが、また同一視することもできない。何を道徳の領域にとどめておき、何を法の領域に取り入れるべきなのか。その程度、範囲はどの限度まで適切であるとするのか、法と道徳の峻別論を論ずることで法の本質の理解につながるといえるのである。以下、考察を踏まえ論及する。
法と道徳の峻別について前提となる2つの条件をふまえ、諸説を検討していく。第1は、法と道徳の区別を法の外面性と道徳の内面性に求める見解である。法は人間の外面的な行為に関係する規範であるが、道徳は人間の内心に関係する規範であるとする説。しかし、法もまた人の内心の意思に関わりも持つことが少なくない...