『道成寺縁起絵巻』の元になったといわれるものについては、『大日本国法華経験記』『今昔物語集』『元亨釈書』などが挙げられる。『大日本国法華経験記』は、平安時代末期に成立した、法華経の威力を実証するための、法華持経者の伝および霊験説話を集成した仏教説話集、『今昔物語集』は、平安時代末期に編纂された、日本最大の説話集であり、説話の総集的な性格を持つとされる。『元亨釈書』は鎌倉時代末期、日本に仏教が伝わってからの仏教の歴史や高僧の功績を記録したものとされる。これらと室町時代に成立したと思われる『道成寺縁起絵巻』を比較することによって、その成立を考えることができる。『道成寺縁起絵巻』は、主のある女が旅の若い僧に恋をして迫るが、その気のない僧は女を欺いて逃げ出してしまう。女は裏切られたと怒って追う間に大蛇に変身し、道成寺まで追いつめる。寺僧たちは若い僧を大鐘の中に匿うが、大蛇となった女は鐘に巻きついて、炎で鐘ごと若い僧を焼き尽くしてしまう。その後、法華経の御利益により成仏することができた、という概要である。
以下、内容について検討する。
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『道成寺縁起絵巻』の元になったといわれるものについては、『大日本国法華経験記』『今
昔物語集』『元亨釈書』などが挙げられる。『大日本国法華経験記』は、平安時代末期に成
立した、法華経の威力を実証するための、法華持経者の伝および霊験説話を集成した仏教
説話集、『今昔物語集』は、平安時代末期に編纂された、日本最大の説話集であり、説話の
総集的な性格を持つとされる。『元亨釈書』は鎌倉時代末期、日本に仏教が伝わってからの
仏教の歴史や高僧の功績を記録したものとされる。これらと室町時代に成立したと思われ
る『道成寺縁起絵巻』を
比較することによって、その成立を考えることができる。
『道成寺縁起絵巻』は、主のある女が旅の若い僧に恋をして迫るが、その気のない僧は
女を欺いて逃げ出してしまう。女は裏切られたと怒って追う間に大蛇に変身し、道成寺ま
で追いつめる。寺僧たちは若い僧を大鐘の中に匿うが、大蛇となった女は鐘に巻きついて、
炎で鐘ごと若い僧を焼き尽くしてしまう。その後、法華経の御利益により成仏することが
できた、という概要である。
以下、内容について検討する。
まず、女が蛇になった部分について...