契約締結上の過失とは、契約の成立過程あるいは契約締結のための準備段階において、当事者の一方の責めに帰すべき事由により相手方に損害を与えた場合の賠償責任の問題である。したがって、締結された契約が無効であった場合のみならず、不成立であった場合、契約締結に至らなかった場合も広く含めるべきものである。もともとこの概念はドイツのイェーリングが、当時のドイツ不法行為法の短所を補うために、原始的不能な契約が締結された場合における相手方の保護責任を設けるべきと主張したことにより注目を帯びたものである。日本でもこの理論は早くから紹介され、学説や判例に大きな影響を与えてきた。現在では、当初の契約の原始的不能の場合のみならず、上記で書いた、契約が不成立の場合に契約の準備段階で過失であった者も同様の責任を負うことや契約が成立した場合にも、不当な方法で契約を成立させた者も同様の責任を負うとしており、その射程は広がっている。
次に契約締結上の過失責任が問題となる場合の具体的な類型をみていくことにする。類型の分類については、学者により多少ことなるものの、以下の4つの分類により検討されることが多いため、これを用い...