債務不履行には、履行遅滞と履行不能のほか、民415条の「債務の本旨」に従った履行がされなかった場合の一態様として不完全履行がある。かつてドイツでいわゆる積極的債権侵害論が唱えられ、消極的な不履行と異なり積極的に履行はしたが不完全な給付をしたために債権者に損害を加えたという場合の責任が債務不履行の一態様として認められるに至った、その責任の内容として債権者の解除権が発生する。不完全履行とは、一応履行はされてはいるが債務者の行った給付は債務の本旨に従わない不完全な場合である。
具体的に、引渡債務の場合には、不完全な給付が追完(あとで完全な給付をすること)できる時には、債務の本旨にかなった履行が可能であるのにいまだなされていないのだから、履行遅滞の問題で処理すればよいことになる。また、追完が意味を持たない場合は、結局、本来の履行ができなかったわけであるから、履行不能の問題となる。いずれの場合も履行遅滞または履行不能を理由に解除し得ると解する。また、一部の不完全履行によって契約の目的を達しえないときには、契約全体を解除でき、一部の不完全履行があっても契約の目的を達しうるときには、不完全履行の...