刑法事例演習教材
1 ボンネット上の酔っぱらい
構成要件該当性について
Aの顔面を殴打した行為(第1行為)について
まず、甲は、Aの顔面を手拳で軽く1回殴打した。第1行為は、人の身体に対する直接の有形力の行使であるから、暴行罪の構成要件に該当する(208条)。
Bの体の近くに車を発進させた行為(第2行為)について
次に、甲は、Bの体の近くに車を発進させた。そして、Bは、甲の車を避けようとして転倒し、全治1週間の打撲傷を負った。第2行為は、人の身体に対する直接の有形力の行使であるから、「暴行」にあたる(208条)。
また、人の近くに車を発進させる行為は、その人が車を避けようとするなどして転倒し、傷害を負う結果が生じる危険を有する行為であるといえる、したがって、第2行為とBの傷害結果とには、因果関係が認められる。
もっとも、甲は、車がBにあたることを認識していなかった。そのため、甲には、暴行罪の故意が認められないのではないか(38条1項本文)。
刑法は、構成要件によって国民に規範を与えている。そのため、国民は、客観的構成要件事実の認識があれば、規範に直面し、その行為の決定をする...