単元Ⅱ 「北海道論」
■テーマ 『我社が属する業界の歴史と
北海道における特質について論ぜよ』
1,はじめに
人間の生活に欠かすことの出来ないもの。現代においてはさまざまなものが考えられる。
インターネット、スマートフォンに代表される IT 製品や電化製品、自動車に代表される輸
送手段などは、すぐに挙げられるのではないだろうか。現代まで人間が創り出してきたそ
のようなアイテムは、無くなると不便ではあるが生活することは可能だ。しかし人間が誕
生する以前から存在する“水”は生きていく上で欠くことの出来ないものである。
今、私が携わっている建築設備業にとっても“水”は非常に大きなウェートを占めてい
る。給水設備・暖房設備・消火設備・空気調和設備など、いずれの設備においても必ず登
場し、逆に“水”が無ければ私の仕事は成立しないのである。そんな“水”をテーマに論
じてみようと思う。
2,水道の歴史
世界的に見ると水道の歴史は紀元前 2000 年以前にさかのぼる。古代エジプトのピラミッ
ド建設工事に用いられていたカイロのジョセフ井戸が最古とされている。その後長い年月
を経るうちに都市が形成され、水需要の増加に伴い遠方の水源より都市に水を導く施設が
造られた。これが俗に言う古代ローマ水道である。18 世紀頃になると蒸気ポンプなど利用
した水道が形成され、19 世紀に入ると水輸送に増して水質に関心が移行していき、砂など
を利用した濾過も見られるようになった。19 世紀後半のコレラの大流行を機に濾過・浄水
技術が広く研究され、衛生施設としての水道の評価が高まり近代水道の基礎が形成された。
日本に於いては、16 世紀後半に河川からの自然流下を利用した小石川上水が最初の飲料
用水道だと言われている。その後、神田上水や玉川上水が造られ、日本各地にも普及した。
明治時代に入り、衛生の向上を目的として横浜に近代水道が造られた。世界に遅れるこ
と数十年の年月を要しているが、その後の我が国の発達は目覚ましく、1970 年には水道普
及率が 80%を超え、2003 年におよそ 97%に至っている。
現代では水道の蛇口を開ければ勝手に水が出てくるが、そこに至るまでの構成について
少し触れておく。水は海を原点としている。海水が蒸発し、上空で冷やされて雨や雪とな
り大地に降り注ぐ。そしてその水は、河川や地下水となって再び海へと戻っていく。この
ように水は自然界で循環しているのである。
現在日本では、水道の水源は河川から 7 割強、地下から 3 割弱の割合で取水している。
取水口から専用の配管を通じて浄水場へ送水し、そこで浄水処理されポンプなどを使用し
て各家庭などに給水している。また余談ではあるが、各家庭に給水された水は、炊事や洗
濯・風呂や便所で使用され、下水道管を通じて、排水処理施設へと送られる。ここに流入
してきた排水は高度処理され、再び河川へと放流している。人間の生活環境においても水
は循環しているのだ。
3,北海道における特質
水はどのような性質を持っているのか。0℃を境に固体から液体に変化し 100℃を境に液
体から気体へと変化していく。寒冷地である北海道に於いては 0℃で固体に変化する、つま
り凍結するということが重要なポイントとなる。水は凍結すると流動性を失い、水道の役
割を果たさなくなる。そのために我々は水道施設に於いて防寒対策を施さなければならな
い。これはまさに北海道の特質と言っていいのではないだろうか。今夜は水道凍結に注意
して下さい。といった注意喚起や水抜き栓の設置、屋外の水道管は地中 1m以上深く埋設す
るといった北海道の常識は、関西以西では非常識となってしまう。しかしながら防寒対策
を講じるがゆえに、水抜き栓や凍結防止ヒーターといった独特の製品が生まれ、それを扱
う企業が北海道経済の一端を担っているのも事実である。そのような企業が北海道に本社
を構えていることも少なくはない。水抜き栓メーカーである光合金製作所のような会社が
同友会のメンバーであることは非常に心強い限りであり、同社の研究・開発への期待は大
きいものがある。
もう一つ特質を上げるとすれば、北海道では水不足に対する懸念がほとんど無いという
ことだろうか。北海道は冬になると大量の雪が降り、その雪解け水を蓄える山や緑が豊富
にある上、人口密度は日本で一番低い。私たちは、水資源に対して非常に恵まれている土
地に生活している。そのことに感謝の念を忘れてはならない。
4,水との共生
ここまで水道について論じてきたが、水道の源である水は飲用以外にも様々な場面で人
間の生活に寄与している。加温すれば給湯や暖房に利用でき、さらに高温にすれば蒸気と
なって各種動力や熱源として利用できる。逆に凍らせれば、冷却・冷房などの用途に利用
できて、その利用用途の可能性は無限に広がっている。しかし、この無限の可能性を持っ
た水を資源として見たときには必ずしも無限ではないだろう。東日本大震災で原子力発電
所がダメージを受けて、周辺の水が放射能に汚染されている。世界中の水資源から見れば
福島の水はほんのわずかでしかないかもしれないが、今後同じような事故が起こる可能性
は否定できない。さらに大きな事故や人間の想像を超える新たな事故が起こるかもしれな
い。また、森林伐採や都市開発による緑や土壌の減少は、自然の水の浄化を妨げる。
人間社会において水の枯渇は死を意味する。最近は、地球温暖化やエネルギー問題が声
高に叫ばれているが、今こそ水は有限の資源であるとの認識を強く持って、水との共生を
真剣に考えてみる時期に来ているのではないかと考える。
参考文献
ソーラーシステム研究グループ『都市の水循環』NHKワニブックス 1982 年
川北和徳 監修『上水道工学(第4版)
』森北出版㈱ 2005 年