芥川龍之介の『鼻』を読み、出展と比較して論ぜよ。
[あらすじ]池尾の高僧・禅智内供は、人並みはずれた長鼻の持ち主で、鼻ゆえに傷つく自尊心に苦しんでいる。さまざまに手を尽くした末、ようやく鼻を縮めるのに成功するが、前にも増して人々の冷笑を買う。ある夜、鼻は水気をふくんで元通りに長くなったが、内供の心はかえって晴ればれとする。
芥川龍之介の『鼻』は、『宇治拾遺物語』の「鼻長き僧の事」と『今昔物語集』の「池尾の禅珍内供の鼻の語」を一応の典拠としているが、内容を大幅に改変して創作したものである。
芥川は改変によって、どのような効果を狙ったのだろうか。出典となった作品と『鼻』を比較して論じていく。
『宇治拾遺物語』の「鼻長き僧の事」や、『今昔物語集』の「池尾の禅珍内供の鼻の語」においては、童が粥の中へ鼻を落とした話を中心にしているのに対して、『鼻』では「鼻を粥の中へ落とした話は、当時京都まで喧伝された」、「けれどもこれは内供にとって、決して鼻を苦に病んだ重な理由ではない」とあるように、童が粥の中へ鼻を落とした話は重要視されていない。
また、『今昔物語集』や『宇治拾遺物語』が、登場人物の行...