法と宗教、道徳、習俗は本来、多くの民族のもとで古代から密接に結びついていた。
しかし、17世紀の宗教抗争を機に、教会や教皇を市民の世俗的支配から排除し、外面的な市民行為に対し至上権を有する君主を確立しようとする近代自然法論が生まれる。自然法論により、法は外的拘束力と強制力を、道徳は内的拘束力のみを持つものとして完全に分離された。これにより、公の権力支配は法により行われ、宗教的・道徳的なものが排除されたのである。19世紀後半の法実証主義的概念法学でも法と道徳を完全に分離する立場が継続され、さらに、人と物を封建的秩序から解放し、個人主義的自由主義の原理の上に市民個人の自主的・能動的活動の余地を広く保障する近代市民法が誕生した。資本主義経済の著しい発展は、近代市民法に基づく私的自治の原則によるものである。
しかし、資本主義の発展に伴い、富の偏在等多くの社会問題が生じた。これに対し近代市民法を実定法規の自己完結性の法的世界観の下で形式論理的に適用するだけでは解決できず、近代市民法の矛盾が露呈することとなる。従来のように法と道徳を無関係な規範として切り離しておくわけにはいかず、法と道徳の積極...