抵当権に基づく妨害排除請求が認められるべきか否かについて論ずる。元来、妨害排除請求権は、所有権等の物権の権利者が、その目的物を占有侵奪以外の方法で侵害している者に対し、排除を請求することができる権利のこと言う、
本論では、物権の所有者では無い抵当権者が、妨害排除請求を行う事が出来るか否か、代表的な判例三例を紹介し、判例理論の発展と展開を明らかにしていく。
一、最判平成三年三月二二日の判例
最初に、「民法三九五条ただし書の規定により解除された短期賃貸借ないしこれを基礎とする転貸借に基づき抵当不動産を占有する者に対して、被担保債権保全のため、抵当権に基づく妨害排除請求または所有者の所有物返還請求権の代位行使として、当該不動産の明渡しを求めた(最判平成三年三月二二日民集四五巻三号二六八頁)」という判例を紹介する。
短期賃貸借とは、抵当権のついた土地や建物が競売にかけられて落札されても、短期賃貸借契約(建物であれば三年以内)があれば使用し続けることが出来る(民法六〇二条)という制度の事だが、この短期賃貸借が抵当権者に損害を及ぼす場合、抵当権者の請求により裁判所は賃貸借の解除を命ずる事が出来る...