『ルポ 戦争協力拒否』読書レポート

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    自分が無料公開している資料の中で閲覧数第1位。

    2006年にある講義で課題として出された、『ルポ 戦争協力拒否』の読書レポート。

    第一次安倍内閣の頃に書いた読書レポートなので、
    その当時の政府方針に対する自分の危機感も含んだ内容となっています。

    資料の原本内容

    『ルポ 戦争協力拒否』読書レポート
     私は新聞に一通り目を通すのを日課にしている。なので、このルポに書かれている近年の日米のスタンスやそれに関わる事柄は大方理解し、自衛隊のイラク派遣や有事関連法案などについてもその都度自分なりに考えてきた。しかし読み進めるうちに、イラクで2名の外務省職員と日本人青年が現地の武装グループの手によって犠牲になったことをすっかり忘れてしまっている自分に気づいた。日々刻々と伝えられるニュースを注視している一方で、ほんのつい最近のニュースを少しずつ忘れていってしまっている現実。これを自然の摂理といえばそれまでだが、なんともいえない愕然としたような感覚を覚えた。

    イラクへの自衛隊派遣が始まった当初、派遣反対の考えを抱いていた私だが、外務省職員が殺害された事件を契機としてイラクでの自衛隊の駐留はやむを得ないところまで来てしまったと考えるようになっていた。その頃から単独行動主義のアメリカに追随一辺倒の日本に釈然としない思いを持っていたが、そのときはブッシュ大統領の言っていたように、即時撤退はテロリストに誤ったメッセージを与えることになりかねないという考えのほうが勝った。現実にイラクに派遣され、曲がりなりにも人道復興支援に汗を流している自衛隊員、現地の人々、関係国に対して無責任ではないかと思ったのだ。一度派遣したらそれなりのめどがつくまで責任を果たすのが一国家としての責務ではないだろうか、という思いであった。自衛隊がイラクに派遣されたという事実は「事実」として受け止めた上で、撤退のタイミングを考察していくのが現実的かつ理想的だと考えるようになっていた。そうしたことから、自衛隊の即時撤退を求める団体や運動、識者やそのコメントを見るたびに、即時撤退を求めるのはあまりにも非現実的ではないかという疑問を抱き始めた。実際に派遣される前までの「派遣反対」という主張には共感できたが、派遣されてからの「即時撤退」という主張には共感できなかった。イラクへ派遣される自衛隊員とそれを見送る家族の横で、横断幕を広げて派遣反対を訴える市民団体の姿をTVで見て、粛々と国の方針に従うしかない自衛隊員に対して派遣反対を訴えて何になるのか、派遣反対を訴えるのは国会や街頭だけにするべきだと強く感じたことをよく覚えている。

    既に派遣されてしまったことに対して、なおも「NO」を突きつけるだけでは大多数の理解を得られないという考えの裏側には、「お上の決めたことだから・・・」という意識が知らず知らずのうちに潜んでいたように思われる。それはこのルポを読んで改めて気づかされたことかもしれない。だがそれ以前、ちょうど一年ほど前に高校の現代文の授業で、「茶色の朝」が取り上げられ、卒業間近の私は「一度大きなうねりができると、その方向に大勢が棹差し、やがて物言えぬ世界がやってくる」という静かだが重みのあるメッセージを含んだ、今の日本の流れにあてはまるようなその作品を通して、政府が決めたことを鵜呑みにせず、それぞれが自分自身でその都度立ち止まって国の方向性を考えていく必要性を強く認識したつもりであった。しかし、冒頭にも挙げたように、その都度考えていても、少しずつわたしたちは忘れていってしまうのである。一年経ってみて現在の日本の進もうとしている方向性をみると、一年前と変わらないどころか、自衛隊の派遣期間が延長され、憲法改正の流れは加速するばかりである。ひっそりとだが、着実に政府は既成事実を積み重ね、自衛隊を自衛軍にしようとする意図はあきらかである。
     まだ憲法改正に対して大きな世論の盛り上がりは見られないが、知らず知らずのうちに積み重ねられてゆく既成事実に対して、はっきりと「NO」の姿勢を示す人々を私は見くびっていたように思う。憲法改正の国民投票が行われそうになったときに、はっきりと「NO」を突きつければ何とかなるという思いは少し甘すぎるということに気づかされた。物言えぬ雰囲気になってからでは遅く、既に今そのような傾向が見られることに対して危機感がなさすぎた。立川反戦ビラ訴訟にしても、「ちょっとやりすぎじゃないか」という感覚しかなかった。これはまさに「茶色の朝」の主人公の心境と同じではないか。危機感を持ちすぎるぐらいでないと、いざとなったとき、憲法解釈を繰り返し変更する政府に立ち向かえないということを忘れかけていた。物言えるうちに、言うべきことを言っておかないと、後々後悔するのは自分自身だということを改めて肝に銘じておきたい。
    < 参考文献 >

    『ルポ 戦争協力拒否』(岩波新書) 吉田敏浩 2005年 岩波書店

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