人の幸福を奪った場合,他人の権利や法律上保護される利益を侵害したとき,何らかの責任を負わなければならない。非難されるだけの場合もあるが,法律上の責任にある場合もある。それが,損害賠償責任である。相手から何かされて損害を受けた場合には,その損害の賠償を相手に請求することができる。これが不法行為に基づく損害賠償請求権であり,その規定は民法709条以下制定されている。相手から何かされたときに,必ず損害賠償を受けられるかと言えば,そうではない。不法行為は近代の市民法によって随分と変質し,多様化しているように思えるからだ。不法行為による損害賠償請求権が認められるためには,いくつかの要件が必要で,この要件について述べたいと思う。
第一に,故意,過失のあること。故意とは,わざとやること。自己の行為によって,損害が生じることとをあえて行うことである。過失とは,注意しなければならないのに,それを怠って迷惑をかけること。つまり,その人の職業,社会的地位など不法行為者のもつ知識,経験から予測可能にもかかわらず,結果回避の行為をしなかった意志の欠落で,損害が生じたものである。
第二に,権利や法律上保護され...