設問:『三国伝記』巻十二 第三「恵心院源信僧都事」における唱導文学的特徴について述べよ。
テキスト:仏教文学概説、佛教大学通信教育学部
『三国伝記』巻十二 第三「恵心院源信僧都事」における唱導文学的特徴について述べよ。
「恵心院源信僧都事」について考える前に、唱導文学について触れる。
唱導は従来、表白、正釈、施主段の三段形式から成るものとされ、また、経典の講釈は、来意(その経典の趣旨)、釈名(題名の説明)、入文判尺(本文の解釈)の形を採るのが、通則となっている。目下、その具体的な姿をモデルとして再建することが、文学史における急務の課題であり、徐々にその復元が試みられつつある。
仏教流布のために、内と外、それぞれにおける方法がある。教団内部では、師資相承の学問として、また、修行を通じて、仏教は体得され伝えられた。一方、外部へは、布教という形がとられ、また、仏教がある程度社会に根付くと、法会が、俗人の社会に具体化して仏教の浸透を図ることになった。法令は、詞章だけのものではなく、音や動き、あるいは荘厳といった、人間の五感に訴える総合的な行為であるが、そこにおいては、言葉もまた、大きな役割を担っていた。
永井氏は、唱導が表白詞章と口頭詞章と分けて考えるべきであること、また、表白詞章が多くの唱導文集となり、口頭詞章が仏教説話集の...